【銀魂】光に焦がる虫

世界の壁 ページ5

(・・冗談、なわけないじゃないか)





隣でタバコをふかす彼を見やる。
いつ見ても変わらない横顔。ーーそれは私に、
いつも安堵を与えてくれる。


でも今は、それがどこか悔しくて、悲しくて。


ギュッと胸が締め付けられた。


立ち入ってはいけない境界線は、確かに存在する。
私の生きる世界。お兄さんの生きる世界。

・・この世界から逃げ出す勇気なんてないくせに
あんなこというなんて、無責任だったかもしれない




(ーーそこまで見抜かれていたんだとすると、)



私はきっと、この人には勝てないだろう。







「じゃあせめて、名前くらい教えて欲しいもんだ」


「名前？」

「まだ伏せるのかい？」




私は、この人のことならばなんだって知りたい。
名前も年齢も、血液型だって。

どんな些細なことでも、それを知れたことに
幸せを感じるんだ。



お兄さんは、視線を天に泳がせる。
しばしの沈黙のあと、その人はそっとこちらに
視線を戻した。








「ーーー・・土方だ」

「ッ、え？」


「土方十四郎」




驚いた、というのが正直なところだった。

これまで断固として口にしなかった自分の名前。
それを今、はっきりと言い放ったのだ。


当人は、怪訝そうに眉をひそめ
「何だそのツラ」と。どうやら、私の驚きは
表情に出ていたらしい。





「・・偽名？」

「疑ってんのか」


「そりゃだって、・・あんまりあっさり教えるもんだから。怪しんじまうのも自然だろう」




彼は呆れたように肩を落とした。
そんな姿を眺める一方で、
私は心中、さきほど聞いた名前を繰り返す。





「正真正銘、俺の名だ」






ーーーひじかた、とうしろう

それが、この人の名前。






「・・二人きりの時は、名前で呼ばせとくれよ」

「好きにしろ」






遠ざかっていた距離を縮め、再び繋ぎ止められた
ような気がした。その人のことを知ると、
ほんのりと胸が熱くなる。

観念したように紫煙を吐き出した土方十四郎は、
短くなったタバコを灰皿に押し付けた。






「何で教えてくれたんだい」


「・・さあな。ただ、教えても問題がないと判断
したからそうしただけだ。特に深い意味はねーよ」


「そう」



少しは、この人の懐に潜り込めたのだろうか。
少しは、世界の壁を越えられたのだろうか。

知らない話→←予想通り

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す