泣かないでよ ページ12
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言うだけ言っていなくなるなんて、俺、最低やないか。
鼻をすすりながら、少しずつだが、溢れてくる涙を止められずにいた。
珀が彼奴の事を好きになるのは時間の問題だと、分かっていたつもりだ。
俺は珀と幼馴染みだから、なんてたかをくくっていた。
でも所詮は幼馴染み。
珀の心に入れる隙間なんて何処にもなかった。
だが、それでも好きなのだ、どうしようもない程に珀を愛してしまっている。
……大馬鹿野郎やな。
そう思えば思うほど、涙は溢れて止まらなかった。
小さく嗚咽を漏らせば、その場にへたりこむ。
「俺は臆病者や」
そう呟けば、またぼろぼろと涙が溢れだす。
がさっ、と言う音がして後ろを振り向くと同じクラスの、彼奴と仲がいい、川崎秋、が立っていた。
泣いた顔なんて見せたくない。
そう思い俺は立ち上がって後ずさりをしようとすると、
「どうしたの? 有澤君、……涙出てる」
そういって、すっと、俺の頬に手を伸ばしてきた。
俺は思わず、その手を振り払ってしまった。
「川崎には関係ないやろ」
涙ぐんだ声で言えば、川崎は手をおずおずと引っ込めた。
八つ当たりをしてしまう自分に嫌気がさす。
涙を拭い、相手の横を通りその場を立ち去ろうとしたが、ぐいっと腕を引っ張られた。
「なんやねん!!」
「……確かに、僕には関係ないかもしれないけど、泣いてる子を放っとけない」
優しい声で後ろからそう言われ、止まった筈の涙がまた流れ始めた。
「よ、けいな、世話、やっ……!!」
思いっきり腕を振って相手の手を振り払えば、川崎の方を向いた。
彼奴は俺の目を見つめる。
「泣かないでよ」
何時もは笑顔の表情が眉毛を下げ、困ったようになっている。
その顔が近づいたかと思えば、そんな細い体の何処からそんな力がでるのか、強く引っ張られ抱き寄せられた。
俺は、状況についていけず、は、と間の抜けた声を出した。
「泣かないで、有澤君は笑った方が素敵だよ」
優しく囁かれ、俺は抵抗しようという気持ちさえ起きなかった。
むしろ、今まで以上に大声で泣いた。
川崎は躊躇いながらただただ俺を、泣き止むまで抱き締め続けた。
「もう離れろや」
何十分位こうしていただろうか、俺は泣きつかれ、渇いた声で言った。
素直になれない。
川崎は俺から離れれば柔らかな笑みで言った。
「有澤君は、可愛いね」
俺は意味が分からないと言う顔をすれば、相手を押し退けてその場を去った。
「悪かったな」
そう呟いた声は、きっと届いていなかっただろう。
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りんご(プロフ) - 誤字ごめんなさいw (2019年10月28日 20時) (レス) id: 92785b223f (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 腐男子視点の小説はあまり見ない方でしたが、少しもどかしい感じも含めて、とても面白がったし、いいお話だなと思いました!これからも頑張ってください!! (2019年10月28日 20時) (レス) id: 92785b223f (このIDを非表示/違反報告)
群青色の五月雨(プロフ) - 薄氷さん» コメント二度もありがとうございます!! やっと完結しました。ここまで見てくださりありがとうございました。誉めてもらえて嬉しい限りです。薄氷さんも小説頑張ってください!応援してます。 (2018年1月5日 16時) (レス) id: 227c123589 (このIDを非表示/違反報告)
薄氷(プロフ) - 完結おめでとうございます!!最後の最後まで面白くて、萌えが凄くて、素晴らしかったです、語彙力がなくてすみません。絵も楽しみにしています、完結、お疲れ様でした。 (2017年12月23日 14時) (レス) id: 6feeadb499 (このIDを非表示/違反報告)
群青色の五月雨(プロフ) - 真城双葉さん» 読みにくい小説ですが、読んでいただけらなら嬉しいです。コメントありがとうございました。 (2017年12月10日 2時) (レス) id: 227c123589 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:群青色の五月雨 | 作成日時:2017年5月28日 15時