３２話 月に焦がれて ページ33
俺と同じ境遇……とまではいかねえが、やっぱり同郷のやつの文字を読んでると、冷静に慣れ流ような気がした。
俺は仕事の都合上、読むのはめちゃくちゃ速い。
だから全部に目を通してみていた。
キーワードだけで見ていると、たまに肝心なところを見落とすからってのも、理由の一つだが……。
前の賢者はそれなりにこっちの世界を楽しんでたらしい。
日常的な文が、たくさん記されていた。
『アーサー王子に頼んだら、宮廷料理人にラーメンもどきを作らせてくれた。
うますぎ。ちょっと泣いた』
『アーサー王子が朗報を持ってきた。
大昔には異界から何度もやって来て、帰っていく奴がいたらしい』
晶「へェ……」
今までで一番使えそうな情報に、思わず声をあげる。
もしこれが俺にもできるなら、猫たちの様子を見てすぐ帰ってきてこっちを助けるっつうのも、できるかもしれねえ。
その情報に、少し頬が緩んだ。
『アーサー王子とは話が合う。
あいつが魔法者の魔法使いだったらここの暮らしはもっと快適だろうけど』
『オズが絶対に許さないだろうな。アーサーが来るたびにいなくなって、絶対に顔を合わせない』
そんな文を見つけて、少し考える。
オズは、アーサー王子とは仲が悪いンだろうか。
いやしかし、そうとも言い切れないだろう。
俺の上司には、普段仲悪くて悪口ばっか言い合ってるのに、戦闘時にやたら息ぴったりな人たちがいたし。
他にも、いっつも敵同士として殺し合ってんのに、お互いのことめっちゃ愛し合ってる夫婦もいたしな。
立場上そういうことになっちまった可能性も捨てきれねえ。
晶「ま、どっちでも良いけど………ふぁ」
読んでいるうちに、やっと眠気が起き始める。
ずっと徹夜続きだったんだ。
むしろ今のいままで起きてたのが信じらんねえ。
ふと窓を見上げると、眩しいくらいの明るい月の光が差し込んできていた。
晶「……でけえ月だな……。この世界の月は、いつもこんなにでけえのか？」
馬鹿みてえな感想だが、落ちて来そうなほどでかい月だと思った。
けど、月を見ているうちにも眠気は強くなってきて…。
俺は本を閉じると、そのまま寝落ちた。
部屋の中には、俺の寝息とハーブのいい香りが広がり、窓の外からは、優しい風の音が聞こえていた。
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作者名：ark | 作成日時：2021年8月14日 14時
