その笑顔の裏で (ページ26)

今日:23 hit、昨日:12 hit、合計:251,143 hit

二十五話　ヨコハマギヤングスタアパラダヰス(前編) ページ26

探偵社のあるフロアの一室。

そこには依頼者を通すための小さな客間が存在する。

客間と言っても、低いテーブルにソファが二つという簡素なものである。

そこには、ちょこんと行儀よく座り、両足を右に流した細身の女性が座っていた。

肩までの短い金髪に赤い瞳を持つその女性は、目の前にずらりと並ぶ社員たちをじっと見つめ、一向に口を開かない。

その沈黙を破るように谷崎が話しかけた。

「...........あの、えーと、調査のご依頼だとか。
それで...........」

そこまで言った谷崎は、そこで言葉を止めた。

正確には止めてしまった。

なぜなら.....

「美しい......睡蓮の花のごとき果敢なく、そして可憐なお嬢さんだ」

「へっ！？」

そう、いつの間にか女性の前に出ていた太宰が、女性の手をサッと取って口説き始めたからだ。

太宰の行動に女性も驚き、素っ頓狂な声をあげる。

しかしいつも通り、太宰はそんなことは気にせず、キラキラとしたキメ顔で続ける。

「どうか私と心中していただけないだろ((スパァァンッ」

「なななな」

太宰の頭を、国木田が手帳ではたいた。

これにもまた驚いた女性は、頭にたくさんの疑問符をうかべる。

しかし、国木田はスッと手を女性に向けて宥めると、
「心中～。ちょっとでいいから～」
と言っている太宰の首根っこを掴んで、客間の外へと引きずっていった。

女性もその様子をチラと見て、そのまま話を始める。

「それで、依頼と云うのはですね、我が社のビルヂングの裏手に.........最近善からぬ輩が屯している様なんです」

女性はそう言うと、「あ、いただきます」と言ってコーヒーの入ったカップに手を伸ばした。

そんな女性の様子に、谷崎は冷や汗をかく。

「(普通に再開した.......変人慣れしてンのかな)
善からぬ輩ッていうと？」

「分かりません。ですが、襤褸をまとって日陰を歩き、聞き慣れない異国語を話す者もいるとか」

「そいつは密輸業者だろう」

女性の言葉に、いつの間にか入ってきていた国木田が言う。

女性は軽くそちらを向くと、ぺこりと会釈した。

「軍警がいくら取り締まっても船蟲のように涌いてくる。港湾都市の宿業だな」

「ええ、無法の輩だという証拠さえあれば、軍警に掛け合えます。ですから」

『現場を張って証拠を掴め。ってことね』

言葉を引き継いでそういうAに、女性は頷く。

国木田はそれを確認すると、フッと一瞬考え敦に目を向けた。