十話 人生万事塞翁が虎 ページ11
暗い倉庫の一つの中に、三つの影が潜む。
その中で敦は蹲り、ただ時が過ぎるのを感じていた。
しかし、時が過ぎるのとともに精神が削られ、我慢できなくなっていた敦は、ふと太宰たちのいる方を向いた。
そこでは太宰が[完全自 殺読本]と書かれた本を読んでいる。
Aは太宰の首に後ろから腕を回し、抱きつくようにして寄りかかりながら、本の中を覗き込んでいた。
「......本当にここに現れるんですか?」
「本当だよ」
沈黙を破るように質問した敦に、太宰は本に目を落としたまま答える。
それでも敦は不安が拭えなかった。
それに気づいたのか、太宰がようやく本から目を離し、敦の方をむく。
「心配いらない。虎が現れても私達の敵じゃないよ。こう見えても【武装探偵社】の一隅だ」
太宰のその言葉を聞いた敦は、膝に顔を埋めて言った。
「はは、凄いですね。自信のある人は。
僕なんか、孤児院でもずっと「駄目な奴」って言われてて_____
そのうえ、今日の寝床も明日の食い扶持も知れない身で...。こんな奴がどこで野垂れ死んだって...。
いや、いっそ喰われて死んだほうが___」
自虐的な言葉を並べる敦。
敦の頭は呪いのような言葉をまた思い出していた。
Aは敦の言葉を聞くと、そっと太宰の元を離れ、敦の所へ向かう。
『あんまり思い詰めちゃダメだよ。価値のない人間なんて存在しない。皆何かしら、生きていることに意味があるんだから』
そう言って、敦の頭を撫でる。
敦は頭に感じる手の温もりに、小さく頷いた。
そんな二人の様子を黙って見つめていた太宰が、サッと上を向き呟く。
「却説_____そろそろかな」
太宰のその言葉に、俯いていた敦もばっと顔を上げる。
Aもそれを確認して、ふっと窓ガラスから光を零す満月を見た。
それとほぼ同時に、倉庫の奥からガタンという大きな音がなり、敦はビクッと体を揺らした。
しかしそれ以降、倉庫は静けさを取り戻す。
「今........そこで物音が!」
『そうだね』
「きっと奴ですよ大宰さん!」
「風で何か落ちたんだろう」
恐怖で大声を出す敦に対して、Aも太宰も冷静だった。
しかし、敦の恐怖が収まる様子はない。
「ひ、人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」
「座りたまえよ敦君。虎はあんな処からは来ない」
「ど、どうして判るんです!」
静かな倉庫の中で、敦の恐怖心だけが膨らんでいった。
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作者名:ark | 作成日時:2021年1月4日 18時