20. ページ21
「バトルをするのは好きですか」
『バトルをする……というよりバトルを楽しんでいる人を見ることが好きですね。とても生き生きしているんです、人もポケモンも』
生きているものを絵の中に閉じこめる。
これが私が絵を描く本質。
『勝利をもぎ取るために必死に足掻く姿は実に魅力的です。そうは思いませんか？』
ローズさんは相変わらず人が良さそうな笑顔を貼り付けながら、顎髭を数回触る。
試合は終盤、お互いが最後のポケモンを繰り出す。
観客の応援する声がますます大きくなるのを感じる。
ラストのポケモンってことは……！
頬の内側を強く噛み、手を固く組んで、コートをジッと見守った。
こわいこわいこわいこわいこわいこわい。
あの子達が襲いかかってこないと分かっていても、どうしても体が強ばってしまう。
「……そろそろ私は仕事に戻ろうかな。A君も家に帰るといい」
『はい。ありがとうございました』
……気を使わせてしまった。
ペットボトルの蓋を開けて、ほんの少し口を潤す。
気持ちを落ち着かせている間に試合は終わってしまった。
力の入らない足を無理やり引きずって、窓ガラスの外に広がる光景を眺める。
『みんないい顔してる』
絵に収めないなんてもったいない……！
私は部屋を出て、スタジアムの出口に続く道を軽い足取りで歩く。
「A！来てたんだな！」
『仕事でね。いいバトルを見せてくれてありがとう』
「ああ！トーナメントも楽しみにしていてくれ！」
たたたっと駆けていくダンデくんを見送った後、その背中を追うようにスタッフさんが追いかけていった。
もうちょっと引き止めておくべきだったかな。
控え室の前を通ろうとすると、開けっ放しのドアの向こうにベンチに座ったキバナくんを見つけた。
彼もまた私がいることに気づいたようで、ぱっと笑顔に切り替えて私のところに来てくれた。
「折角Aが来てくれたのにあんまりカッコイイとこ見せられなかった」
しょぼんと縮こまるキバナくんの頬を両手で包み込む。
『かっこよかったよ。キバナくんもポケモン達も』
「A〜！」
『それとファンサ……、嬉しかった』
じわ、と顔に熱が集まった。
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作者名：くるとん | 作成日時：2023年2月24日 20時
