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誰もいない。
ひっそりとした館の中で、その館の主人古明地さとりはそう思った。
いつもは動物たちの鳴き声、はしゃぎ声、心の声で騒がしいのに。
いつもと違う。
今日は何かの日であったかとさとりは掛けられているカレンダーを見た。
何も予定は入っていない。昨日も明日も何も書かれていないし、精々4日後の場所に妹が拙い字で書いた『ホワイトデー』というものがあるだけだ。
妹が教えた『ホワイトデー』というものは、先月の『バレンタインデー』とやらのお返しに、男が女に菓子を渡す地上の行事らしい。
『バレンタインデー』ではチョコレートという菓子を渡す。
さとりは妹から『バレンタインデー』にチョコをもらっていた。
熱気盛んな地底で作ったせいか、妹のチョコレートは若干溶けかかっていたが、それでも十分美味しいものだった。
さとりに渡した時の妹の服や髪には、チョコレートが付いていて、それ程妹が頑張って作ったものを食べれるのか、とさとりは嬉しく思っていた。
何しろいつも何処かへ行っている妹なのだ。
そんな妹が自分のために作ったチョコレート、嬉しくないわけがない。
そんなところまで考えて、さとりは思考がズレていることに気がついた。
こんなにも静かなのは、無意識を操る妹の仕業なのか。
妹なら、イタズラといって地霊殿の動物達を一斉に隠すことだってやりかねない。
もしそうだとしたら、お説教コース確定だ。
閻魔であり、さとりの上司である地蔵のように長く叱れば、流石に反省するだろう。
そんなことを考えながら、さとりは溜まっている仕事の山に手を出す。
さっきまで、仕事中に寝てしまっていた。
旧地獄の管理とは、案外書類仕事が多く、溜め込んでしまうと７日やそこらでは足りないほど仕事をしなければならない。
その7日というのも、妖怪の耐久力でずっと徹夜した場合でも、だ。
そんな仕事の山を見て、ため息を吐く。
「まだ三分の一も終わっていないじゃないですか。」
これからは確実に徹夜だ。
『ホワイトデー』には妹にお返しをあげたかったが、仕方ない。
随分期待していたが、遅れて渡せば問題ないだろう。
説教もお預けとなるが、まぁそれはいいだろう。
そう考えて、ふと気づく。
地獄後から心の声が聞こえない…管理されていない？
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作者名：夢心 葵 | 作成日時：2020年3月10日 17時
