--逃避行-- ページ22
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ーー国を変え、また国を変えた。
この国も恐ろしく治安が悪い。僕が住んでいる町は尚更。住んでいるのは貧しい人達や社会から追い出された悪党ぐらいだろう。
「そういえば、最近”金髪碧眼の優男”を見てないかって町の人間に聞き回る妙な女がいるんだってよ。ありゃ日本人だな…発音も独特だったし」
「顔は結構いいって聞いたぜ。今度誘ってみるか?お目当ての優男ならここにいますってよ」
「どうせ男漁りだろ。一夜で捨てられるのがオチだぜ」
「なら縛り付けりゃいい」などと下品な笑い声混じりに話す男二人。殴り飛ばしたい衝動を抑えてその場を立ち去った。
…また、移住する必要がありそうだ。
(もう一年近く経つっていうのに、相変わらず諦めの悪い子だな)
僕が死んでからもうすぐ一年が経とうとしていた。一回だけ風見と連絡を取り合ったきり友人も恋人も作らず、ずっと一人で生活してきた。
ハロの面倒は風見に任せたか、それとも赤井か。きっと彼女のことだから風見の方にしただろう。
『……お前に頼みがある。赤井秀一』
『秘密にしていたこと全てを話す。その代わり証言してくれ。僕がここで命を落とし、爆発で遺体は残らなかったと』
『まだ死ぬわけにはいかない。
裁かれるべき人間を、裁くまでは』
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「あの、」
ベルモットに教わった変装術がここに来て役に立った。流石に声帯を変えることは無理だったが、全く別人の顔のマスクぐらいは用意出来る。
食材を買うため向かったスーパーで
肩を叩かれ振り返れば、彼女がいた。
綺麗に伸びた背筋も真っ直ぐに自分の目を射止める瞳も、何も変わっていなかった。
「金髪で碧眼の男をこの辺りで見ませんでしたか。優しそうな顔の」
「……」
「そう、ですか」
ゆっくりと首を横に振り、すまないと頭を下げる。
伏せられた睫毛が視界に入り息を呑んだ。
どうして他人の前で、そんな顔をするんだ。
「……突然変なことを聞いてすみませんでした」
踵を返した彼女の後ろ姿が酷く寂しそうに見えた。
抱きしめたいのに、その行為は許されない。彼女の為にも。僕は彼女に声をかけることすら出来ない。
(思ったより、きついかもしれない)
きっと彼女は国を転々としながら僕を探している。
この先僕達が巡り会うことは、もうないだろう。
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モミジ(プロフ) - この作品、最高です!この作品を読んで感動して泣きました。新作も読んで見ます!これからも応援しています! (2019年5月5日 16時) (レス) id: d4cb7d7d86 (このIDを非表示/違反報告)
ringo6349(プロフ) - こんばんは!完結おめでとうございます!ずっと私の中で物語を完結させたくなくて読めなかったのですが読めてよかったです。今回もとても素敵で好きなお話でした。本当にてなさんの書かれる物語が大好きです!忙しいので時間はかかるかもしれませんが新作も絶対読みます (2019年4月26日 22時) (レス) id: 66d3f8785b (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - 華さん» 嬉しい限りでございます…複雑な心境を書くのがすごく難しかったです。コメントありがとうございますー!! (2019年3月29日 14時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
華(プロフ) - すごいです…。私、占ツクの小説で泣いたの、初めてです。夢主の悲しみとか嫉妬心とかが分かりやすくて、一気に読んでしまいました。完結おめでとうございます!! (2019年3月28日 21時) (レス) id: 1c08efcab1 (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - 蓮-Ren-さん» ありがとうございます!そう言っていただけると凄く嬉しいです…(´∇`) (2019年3月27日 13時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:てな | 作成日時:2019年3月21日 16時