【降谷零】死ぬほど貴方が嫌いです、だから結婚してください【安室透】

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『息をゆっくり吐け……いい子だ。
重心を前に置いて、肘を少し曲げろ』


『決して獲物から目を離すな。前だけを見るんだ』




竦む足に気を取られないように、彼の言葉通り前だけを見続けた。全ては己の人差し指にかかっている。ーー引き金に添えた、この指に。






『……上出来だな。流石は俺のｰｰｰｰｰｰｰ』






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｢…………｣




目覚めは、広すぎるベッドの上……ではなく。どうやら寝ている間にベッドから転落したようで、寝ぼけ眼で見える世界は逆さまだった。

シーツごとずり落ちたらしい。我ながら何とも素晴らしい寝相だ。




(あ……そうだ…。家出してきたんだった)





部屋の匂いが違う。昨夜の記憶を辿ってみて、うんざりとした気分になった。…何も知らない降谷にキレた挙句、勝手に家を出ていったのだ。

溜まりに溜まっていたストレス云々が爆発してしまったのだろう。


ーー彼が私のことを何も知らないというのは、至極当たり前なことである。なぜなら仮面を被った私自身が彼を拒絶しているからだ。




(もっとも…私が彼を愛してないのに、
彼が私を愛してくれるわけない)




到底愛せない。まさかここまで降谷が難攻不落だとは思わなかった。浅はかな考えで彼に挑んでしまったのだ。

……それでも、






｢浮気は有罪判決………｣





そりゃ、仕事なら仕方ない。彼は自他ともに認める仕事人間だし。あの顔を使うだけで犯罪者が捕まるのなら降谷も上司も万々歳だろうし。


だがしかし。彼は浮気というものをしていながら、何事も無かったかのように私と接してくる。



せめて｢明日からハニートラップすることになった｣とか、事前報告ぐらいはして欲しい。そうでもしないと彼の本心が分からなくなってしまう。


あの時一緒にいた女とは、ビジネスの関係なのか。
…それともプライベートの浮気相手なのか。







｢お前に専業主婦は向かんよ。
料理も洗濯もろくに出来なかっただろう｣


｢……ノックして｣

｢したが｣





変なところで鈍感な降谷は肝心なことに気付いてくれない。

…いつの間にか側に立っていた赤井、もとい沖矢の顔を見上げた。相変わらず人を馬鹿にしたような笑みを浮かべている。





『ノックして！』

『したが』





赤井とは約一年の間一緒に暮らしていた。
だから私の家事力のなさをよーく分かっている。

……本音を言えば、彼との生活は居心地が良くて少しだけ楽しかった。

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