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「今日は遅くなるんだったよね?気をつけて帰ってきて」
「ああ。ありがとう」
翌日の早朝。降谷の朝は早い。
いつも通り玄関で彼が靴を履き終えてから、私は鞄を両手で渡す。目の下にくっきりと残るクマが彼の睡眠不足を物語っていた。
「……あ、」
「?」
わざとらしく声を上げた私を見て降谷が小首を傾げる。そして少し広い玄関に足を踏み入れ、そんな彼の元へ自ら歩み寄った。
その行為の意図が全く理解出来ないのか、降谷は依然として顔を強ばらせている。
「いってらっしゃい。今日の夜は会えないと思うから、」
……いってらっしゃいのキスがここで出来たら苦労しない。地味に嫌がられても癪なので、キスはせず彼の胸板にぽすんと寄りかかった。
「…………………」
キョトンとしていた顔が更に驚きを隠せなくなっていて、変な追求をされる前に身を離した。初めて彼の体に触れた気がする。
……彼は何も言わない。しん、と静まった玄関で夫婦がお互いを見つめ合っている。
「…………行ってくる」
さすがに出発の切り出し方が見つからなかったみたいで、夫の初行ってきますがついに聞けた。いや最初から言えよって感じだけど。
(ノーリアクション&スルー……)
期待をしてたというわけではないが、それでも一言ぐらい何か言われるかと思っていた。そんなに私への関心がないのか?
「……ん?」
ふつふつと込み上げてきた怒りを何とか鎮めようとしていたその時、エプロンのポケットに入ったスマホが鳴った。
"非通知"の表示を確認してから「はい」と通話に応答する。
「ーーーーーーーー…相変わらずしぶといわね。心配して損した」
……今日は主婦はお休みだ。黒地のエプロンを脱いでソファに放り投げる。『降谷A』ではなく、『浅見A』として今日を過ごすことにした。
白いスカートを脱ぎ、代わりに黒のスキニーを履いた。そして降谷Aなら絶対に着ないであろうライダースジャケットを羽織り、準備は完了だ。
「………行ってきます」
夕飯までには帰ってこよう。まぁ旦那は外で済ませてくるらしいから、一人ぼっちだけれど。
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HALO - お互い実力は認めあってますし大丈夫ですよ!!同じ似た境遇ですからきっと共有すれば乗り越えられる素敵な夫婦になれますよ♪♪ (2019年3月21日 0時) (レス) id: d6476dbe7d (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - HALOさん» そうですよね…!よいお友達になれそうです!きっと乗り越えられたら強い夫婦になれそうですね(´∇`) (2019年3月20日 23時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
HALO - 降谷さんもきっと誤解を知ったら赤井さんといい関係築けそうですよね!!だから夢主ちゃんも乗り越えて降谷さんと幸せになって欲しいなぁと思います! (2019年3月20日 23時) (レス) id: d6476dbe7d (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - HALOさん» ごちゃごちゃしてまいりました…wそうなんです!降谷さんが赤井さんをはちゃめちゃに憎んでいるのと似ているような感じにしたかったんです(語彙力)憎すぎて毎日降谷さんのことばっかり考えてたらいいなあとか思っております (2019年3月19日 17時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
HALO - 複雑になってますねw降谷さんもライが自殺を止められなかった事に対して殺したいほど憎んでいるのと同じな気もしますね!!夢主ちゃんが好きになってるなぁって思うし紙一重なのでしょうか? (2019年3月18日 23時) (レス) id: d6476dbe7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:てな | 作成日時:2019年3月1日 0時