【降谷零】死ぬほど貴方が嫌いです、だから結婚してください【安室透】

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｢いってくる｣

｢いってらっしゃい｣



グレースーツではなく今日は私服姿で出発だ。彼は潜入捜査官として喫茶店でアルバイトをしている。…最近は余計な虫が付きやすいことが問題視されている。私の中で。


パタンと閉じられた扉を確認し、再び彼のベッドの中へと潜り込んだ。まだ彼の匂いが残っている。




『……ごめん』





｢…………、…っ｣




今にも張り詰めていた糸がプツンと途切れそうだった。寝てる時にあんな優しい声で謝られても意味がないじゃないか。まだ私は、彼にとって"大切な人"ではない。


…お姉ちゃんにもそうやって囁いて、騙して、殺したのだろうか。





(……気分が悪い)





殺したいほど憎んでいる相手を目の前にして、すやすやと安眠できるほど器用な女じゃない。寝不足の体を胎児のように丸めて目を閉じた。


結婚生活も半年が過ぎようとしている。毎日夫に優しい笑顔を振りまいて、遣いたくもない気を遣って。





『透さん、』




……キスしたって言ってた。

それにホテルに入ったということは、つまりやるべき事をやったということで。降谷の本当の名前も知らない、何も知らない女に先を越されたのだ。


いっそのこと私も浮気してやろうか…と布団を勢いよく被ったところで、ベッドの上に投げ出されたスマホがピコンと音を鳴らした。




(『今日は遅くなりそうだから先に寝ててくれ』……)





い つ も だ ろ う が 。


両手で握りしめていたスマホがミシミシと悲鳴を上げた。怒りを叫びたくなるのを抑えてひたすらシーツを握りしめる。




｢………買い物、行かないと｣





買い物洗濯洗い物、家の掃除に夕食作りエトセトラ……





｢あ゛ー！早く殺したい！！！｣





専業主婦がこんなにも苦痛だとは思わなかった。

………誰もいない部屋で一人声を荒らげ、満たされない心を抱えながら私は出かける準備をのそのそと開始した。

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