検索窓
今日:10 hit、昨日:137 hit、合計:709,667 hit

41 ページ43

*
Furuya side


僅かに歪められた彼女の表情が視界に入り
離すものかと握っていたその手を
咄嗟にすんなり離してしまった。

…だが、一向にAが僕に背を向ける様子はない。




「………」




今までに見たことの無い表情だった。

手放せば消えてしまいそうな儚さを含んだ顔や
葛藤に悩み苦しむ辛そうな顔なら
これまでに何度も見てきたのに。




「…、……っ」









.








「ーーーーーーー……っ零、くん…」





ぽとり、とアスファルトに落ちた涙に
目を見開いていれば。はっきりと確かに聞こえた。
ずっと呼ばれていなかった名前が。




「………A」




嬉しさで上擦った声が出てしまう。だけど
今は見栄を張るより、目の前にいる
彼女の名前を呼んでやりたかった。





「おいで」


「………っ…、」









.








俺の声にまた大粒の涙を流した彼女が



ーーーーーーーー初めて、掴まれた手を振り払った。









払われた手を呆然と目にした男を
振り向きもせず。Aは精一杯腕を伸ばして
僕の首に思い切り抱きついた。



まるでスローモーションのように
その光景が視界に映されて、
瞬間に僕は心の底からこう思ったのだ。





(………ああ…やっと、この子が)





僕のものになってくれた。







「…っ、ぅ……ッごめ、なさい…」




Aは僕の首にしがみつき、嗚咽が混じった泣き声で
必死に自分の気持ちを素直に伝えようとする。
やっと聞けた本音に泣きそうだった。




「わたし、結婚しても…普通の人みたいに出来ないし
上手に伝えたいことも言えないから…っ

でも、……でも…ッ本当は、」









「本当はっ、…零くんがいい…!
れぇ、くんと、一緒にいたい……」








我儘を言う子供みたいに、Aは
ボロボロと涙を零しながら俺に縋った。

どれほど、辛かっただろうか。苦しかっただろうか。


子供の頃から皆が欲しがるおもちゃも
洋服も我慢して、僕と付き合っていた時だって
我儘の一つも言わなかったのに。





(……初めて、言ってくれたな)




最高の我儘だ。


今まで呼ばないようにしていたであろう俺の名前を
Aは号泣しながら何度も口にする。そんな彼女の
頭をぐしゃぐしゃに撫でて強く引き寄せた。







「やっと折れたか、意地っ張り」と
耳にキスを落として囁くと、
Aはようやく安堵したように泣き笑った。

42→←40



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (543 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1353人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

てな(プロフ) - まゆさん» わーありがとうございます!気づくの遅くなってすみません…!感動していただき嬉しみです(´∇`) (2019年3月10日 22時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 完結おめでとうございます^_^面白かったです^_^最後は、すごく感動しました!これからも、頑張って下さい^_^ (2019年3月7日 14時) (レス) id: 406c27ad01 (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - かずささん» ありがとうございます!結構端折ってた部分もあったので過去エピソードとか結婚後のお話を時間があったら書いてみたい!!と思ってます(゜▽゜) (2019年2月1日 23時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - れいさん» ぴえありがとうございます〜!50話を超えてしまったので気が向いたら続編を作ってみたいなとか思っております… (2019年2月1日 23時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
かずさ(プロフ) - 私も結婚後の生活の話が読みたいです!できるならお願します! (2019年2月1日 22時) (レス) id: 189adfe0dc (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:てな | 作成日時:2019年1月20日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。