もしもの話。【短編集】

↑の続き ページ7

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「お、おにー様！ あのね、今この女を始末しようとしてたの！おにー様だって、こんな女と結婚したくなかったでしょ？ だから私が____」
「誰がいつそんなことを頼んだ、フランペ」

そう言うカタクリ様の表情は見えないが、彼が怒っていることは確かだった。

「大丈夫か」

優しく手を差し伸べてくれる彼を見て、心の底から安堵する。

「あ、ありがとうございます……」
「なっ、おにー様！どうしてそんな女を助けるの！？ そんな子供も作れないような役立たず！」

私を抱き抱え背を向けるカタクリ様に、フランペちゃんは不満気に問う。
それを無視して、カタクリ様は私を優しく包み込んでくれた。



「俺のせいですまなかった」

申し訳なさそうに謝るカタクリ様に、私は首を横に振る。

「カタクリ様が謝る必要なんてありません。私が役立たずなのは事実ですから」

笑みを浮かべながらそう言うと、カタクリ様はさらに顔を曇らせた。

「……お前に子供ができないのは、そもそも俺のせいだ」

そう言って、彼は厚いフードで口元を覆う。彼がそのフードを私の前で外したことは、一度もなかった。そういえば、結婚式での誓いのキスも上手く誤魔化されたな、とふと思う。
でも、それは私に魅力が無いせいだと思っていた。

「……A」

優しく、私の名前を呼ぶ。

「お前は……この口を見て恐れ、笑うか？」

そしてゆっくりと、微かに震えている手でそのフードをずらした。大きな口に、鋭い牙。
初めて口元を見せてくれたことに、私は怖いと思うより先に、嬉しいと思った。
カタクリ様の言葉を否定するように、ふるふると首を振る。

「びっくりしましたけど、怖いなんて思いません。それよりも嬉しいです。カタクリ様の素顔が見られて」
「そうか……」

そう言って、カタクリ様は安心したように少しだけ口元を緩めた。

「なら、問題はなさそうだな」
「え？」
「俺はこの口のせいでお前に何もしてやれなかったが、お前は受け入れてくれた。フランペの言う役立たずでは、もうなくなるだろう？」
「そ、それって……！」

身体が熱を帯びていくのがわかり、思わず下を向いた。そんな私の頰に、カタクリ様はそっと手を添える。
そして、視線が交わり、どちらからともなく唇を重ねた。優しくて穏やかな口づけだった。

「カ、カタクリ様っ」
「愛している、A」

その言葉に、涙を堪えながら「私もです」と答えた。カタクリ様は少しだけ頰を赤らめて、私をそっと抱き締めてくれた。


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