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29話 感傷だらけ ページ30




そう述べて首を横に振ると、無理を言ってしまって申し訳なかったという顔で廊下を引き返そうとしたため、思わず呼び止めてしまう。


「…鬼狩り様……いや、紲条A。
……本当に何も覚えていないのか?」


少しだけ振り向いた横顔は初めて会った時から幾許(いくばく)も変わらず美しいままで、また息を飲んだ。
一体この美貌がどれだけの人を狂わせてきたのかを想像すると背筋がゾッとする。


『…………』


彼女は考えている。もちろん私のことも覚えていないのだろう、それでも考えている。思考を止めずに私の顔を捉え、見つめている。


『……………………ええ、何も』


月の光が彼女の端正な顔を照らす。
泣きたくなるくらい美しかった、嗚呼。

自分のことを全て忘れてしまった人間と、全て忘れられてしまった人間とでは、どちらが悲しいのだろう。どちらが虚しいのだろう。

答えはきっと前者だ。人間には今までの記憶が全てで、そこから沢山のものが派生していく、そうして生きていくのが当たり前なのに、それは彼女には成しえない。

全て忘れられてしまった人間には、どれだけ悔しくても悲しくても他に好きなだけ選択肢が与えられるというのに、酷い話だ。

なぁ、囲炉里(いろり)殿、君の弟子は悲しいな。あんまりじゃないか


「…明日にはこの家を出るのですね」

『そのつもりです』

「……それと、」


言って、良いのだろうか。
彼女はこのまま何も覚えていない方が良いのかもしれない。貴方だったらどうする?教えてくれ


「…全て思い出したら、私のところに来てほしい」


絞り出すような、迷いを孕む霞んだ声だった。

それでも月光を捉えた薄浅葱色の瞳は、ゆっくりとひとつ、長い睫毛を伏せて瞬く。


『……必ず。』


感傷などは無い。

ただ、ああ、あの時の哀れで無機質なだけだった子供は、これ程力強く言葉を紡げるようになったのだなとただただその美しさに見惚れながら思った。

29.5話 作者より→←28話 家主さん


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設定タグ:鬼滅の刃 , 時透無一郎   
作品ジャンル:アニメ
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ほしいも(*^^*)(プロフ) - 設定めっちゃ自分の好みでした!(笑)更新少しずつでいいので頑張ってください〜!😁 (12月13日 16時) (レス) @page40 id: 88768a4726 (このIDを非表示/違反報告)
向汰(プロフ) - 空桜さん» そう言っていただけて嬉しいです!それに、私以外にも頑張っている方がいらっしゃるのだと思うと少し肩の力が抜ける気がします(´˘`*) 試験頑張ってください。応援しています (2019年9月23日 1時) (レス) id: 1112aaa288 (このIDを非表示/違反報告)
空桜(プロフ) - 待ってますね!私も就職試験あります。お互い頑張りましょう! (2019年9月23日 1時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
向汰(プロフ) - 何卒さん» ありがとうございます〜〜!気長にお待ちください(´˘`*) (2019年9月22日 21時) (レス) id: 1112aaa288 (このIDを非表示/違反報告)
何卒 - めっちゃ気になるところで終わってしまってウズウズしてます。笑 続き楽しみにしています! (2019年9月21日 1時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:向汰 | 作成日時:2019年8月25日 1時

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