Trenta ページ30
彼の瞳に気圧されながら、少しでも安心させようと、
「…行ってらっしゃいませ、坊っちゃま。」
普段彼が外出する時と同じように挨拶をした。今度は上手く笑えただろうか。だが、上げた口角が震えてしまった。
「あぁ。」
彼は無関心に答えた。これも普段の事だ。だが、今日くらい愛想良くしてくれてもいいのではないか。そんな事が頭を過ぎった。
後ろに立っている親分は、意外な事に、とても静かだった。もっと騒がしくすると思っていたのだが。
不審に思い、彼の方をチラリと見ると、目が合った。彼は苦笑し、口だけ動かした。
流石に堪えるわ。
彼に掛ける言葉も見当たらず、少し戸惑っていると、背後から足音が聞こえた。
振り返ると、坊っちゃまの香りに包まれた。あの、陽だまりのような優しい香りに。
出会った頃より随分成長した身体、そして逞しい腕が、私の肩を優しく抱く。
彼の名前を呼ぼうと唇を動かすと、遮られた。
彼の柔く紅い唇に。
優しく、触れるだけのキス。それは私にとっては
何も言えず彼の顔を見ていると、申し訳なさそうに、喉を詰まらせて彼はこう言った。
「…Addio, tu del primo amore.」
やはり私は何も言えなかった。溢れる涙と赤く染まる頬がその言葉の答えだ。
「Jeg…elsker også dig.」
彼に分からないよう、母語で答えた。この言葉は分からなくて良い。私の本心を、彼は知らなくて良い。
彼は私にとって息子のような存在なのは、今も変わらない。だからこそ、奪われてしまう悲しみが勝る、どうしても。
約束通り、彼とずっとに一緒に居たい。永遠に私の側に居てほしい。
それが叶わないのなら、もういっその事。
だが、当てが外れた。それは彼の表情を見れば分かる。
「好きな奴の母語を、俺が勉強してないとでも思ったか?」
舐めんなよ、彼はそう言って悪戯な笑みを浮かべ、私の耳元で私の母語を囁く。後ろで北伊の上司が催促した為、言葉を発した後、二人は目を合わせる事なく、彼は発った。
「…何言われたん?」
そう問う親分の肩に、彼女はもたれかかる。
「反則ですよ、坊っちゃま…。」
黒い車が小さくなるまで、二人は玄関に立ったままだった。
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藤子(プロフ) - あんこさん» 初めまして!コメントめちゃめちゃ嬉しいです!!あんこさんをときめかせる事が出来たようで何よりです〜!! (2019年3月26日 17時) (レス) id: 667f2e653e (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - 藤子様、初めまして。本当に素敵な作品で、悶絶しながら読ませて頂きました!ロマの台詞にきゅんきゅんさせられてばかりでした。幸せな時間を過ごさせて頂きまして、誠にありがとうございます。不躾ながら完結から随分と経っているのにコメント失礼致しました。 (2019年1月9日 22時) (レス) id: 6e1ddb073f (このIDを非表示/違反報告)
藤子(プロフ) - パン粉さん» わぁ!ありがとうございます!!お気に召していただけたようで何よりです! (2018年11月29日 22時) (レス) id: 771e5159cf (このIDを非表示/違反報告)
パン粉(プロフ) - とても好きです……。 (2018年10月13日 14時) (レス) id: c18102f006 (このIDを非表示/違反報告)
ツナ缶アイス - 藤子さん» はい、福島の人なんです!wwやっぱりヘタリアについて語るのは楽しいですね!8時間くらい語れそうです!ww (2018年8月18日 19時) (レス) id: ec47fd7e2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤子 | 作成日時:2018年8月3日 23時