透明少女 Ⅲ 【太宰治】 (ページ4)

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「どういう事なんですか？！」

「どうもこうもあるか…Aは探偵社を辞めた。それが事実だ。敦。」

国木田は敦の掴んでいた腕を取り払いなんでもないかの様に嘆いた。

「ですが、何故辞めたのですか！自分のせいで探偵社に迷惑をかけると思ったから？もう、三社戦争は終わった。だったら大丈夫じゃないですか！何故、何故？そもそも、辞めることを何故許可できたのですか。」

｢…それは、鏡花ちゃんと同じだよ。｣

そこで敦は理解した。

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時刻は二十三時を過ぎていた。

もう、辺りは暗くなっていて、道行く人は酔っ払いや道の外れた者ばかりが通りすがった。

＿明日にはもう、ヨコハマには居ない。

悟の作ってくれた私の生活を壊すのはいけないことだと思う。

でも、それよりも、私には今成し遂げなければならないことが見つかった。

私を救済してくれた者の、恩を返す。

それが今の私の生きる意味。

『本当に私って我儘だな。』

姿勢を崩した。少しばかりゴツゴツしている床だが、この体勢も中々悪くない。

暗い夜空が不気味に見えた。

｢自分でも分かっておるではないか。｣

聞き覚えのある低い声は迚好きにはなれない奴だった。

『嗚呼、分かっているさ。
だけど、人間ってそんなもんだろ？
芥川。君もそうだ。皆が良い人ってレッテル貼って本当は自分の願いが叶えたい。
きっと、私やお前に限らず、彼もそうだったんだよ。
本当に馬鹿げてるな、この世界は…。』

私の潤んだ瞳を隠すかのように芥川は白い手を顔の目の前に見せた。

｢今更か。この世の中は甘くない。僕や貴様、皆
明日はもう息をしてないかもしれぬ。残酷で醜い。
まるで、この世界は昔も今も変わろうとしない。
だが、それで良い。其れは皆が愛している世界なのだから。｣

『なんだよ。それ。芥川、気持ち悪ー。中身違う人がいるの？』

私はにこりと笑ってやったらその言葉に腹立たしく思ったのかデコピンを思いっきりしてきた。

｢そんな事は無い。現実を見ろ。今の貴様の無様な姿をこの目に刻みたかっただけだ。｣

『あー、流石、芥川龍之介だわ…。』

フンと芥川が鼻を鳴らすと立ち去って行った。

『頑張ろうかっ！』

温かい、優しい何かに背中を押されたような気がした。