06 ページ6
.
検査入院だからあんまり心配しないようにって言われたけど、その検査入院は思いの外長引いて、心配せずにはいられなかった。
大丈夫、すぐ治るよ、そう言う太輔の頬は少しずつ痩せていった。ちゃんと食べろって言うけど、体調の優れない身体には入っていかないようだった。
食べられない太輔の身体はまた少しずつ弱っていき、いつしかベッドが起き上がっている事の方が少なくなった。
…それなのに、
「ちゃんとご飯食べてる？ちゃんと寝てる？頑張り過ぎちゃだめだよってバカみたいに繰り返してた」
「ははっ、太輔らしいね」
「うん。俺もそのままそっくり返してやったよ」
少しずつで良いから、ゆっくりでいいから食べて。…頼むから。
そう言えば、わかったよって弱々しい顔で笑ってた。
.
見舞いに行く度、担当の先生に何の病気なんですかって聞いても、いつも返ってくる言葉は「何度調べてもわからないんです」、この一つだった。症状から辿ると、似ている病気はあっても、どれも違うらしい。
俺も先生と本人から聞いた症状をまとめて、暇さえあればネットで調べたりもしたけど、見つからなかった。
.
「結局何だったんだろうな」
「…わからなかったんだ」
「うん、最後まで」
病名もわからず、回復もしないまま、入院して半年が過ぎた頃。季節はもう、秋に移り変わろうとしていた。
病名がわからないとなると、症状に当てはまる薬をあいつの身体に合わせて片っ端から試していくしかなかった。
もちろん副作用がある薬もある。そんな薬の時は、辛そうにする太輔の手を握りながら、背中をさすることしかできなかった。…見てるこっちも辛かった。
.
そして、秋ももうすぐで終わるという頃。
家に戻れるくらいには回復した太輔から、ある話をされた。想像もしていなかった言葉たちに、俺は大した言葉も返せずに、ただぼろぼろ涙をこぼして俯いていた気がする。
『先生に紹介してもらったんだ、有名な先生。その人だったら俺を治せるかもしれないって。だから…行ってくる』
『…ひろ。その間、待ってられる？』
付いていくつもりだった。どの病院でも、仕事の合間に通う覚悟を一瞬で決めた。だけど、あいつは一人を望んだ。
「…その時に言われたんだ。春を向かえられたら連絡する、すぐにここに帰ってくる、…春が来ても帰って来なかったら、ひろはまた新しい道を歩んでほしいって」
「そんな、こと」
「ばか、だよなぁ…」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 469人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
茉莉花(プロフ) - nicole155さん» 初めまして。実は中盤からちゃんと描けているか不安になっていた部分もあるので、素敵な感想を頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます！ (2018年8月14日 1時) (
レス) id: 1e53697028 (このIDを非表示/違反報告)
nicole155(プロフ) - はじめまして。お話、とてもおもしろかったです。いい意味で、お話の展開がわからなさ過ぎて、とてもハラハラしました。蜃気楼がテーマだったと知って、あらためて蜃気楼リピートしてます。素敵なお話をありがとうございます。 (2018年8月8日 8時) (レス) id: 5edbe27f7b (このIDを非表示/違反報告)
茉莉花(プロフ) - なみこさん» はじめまして、コメントありがとうございます！こちらこそお読み頂きありがとうございます！え〜…嬉しいです＾＾笑 これからも頑張りますのでよろしくお願い致します！ (2018年8月6日 14時) (レス) id: 1e53697028 (このIDを非表示/違反報告)
茉莉花(プロフ) - 白雪さん» ファンだなんて…！泣 こちらこそありがとうございます！本当に嬉しいです…これからも頑張りますのでよろしくお願い致します！ (2018年8月6日 14時) (レス) id: 1e53697028 (このIDを非表示/違反報告)
なみこ(プロフ) - はじめまして！更新ありがとうございます！本当に個人的に大好きなお話なので更新されるたびに声が出てしまいます笑 これからも楽しみにしております！ (2018年7月23日 15時) (レス) id: 3a6b1b4e2c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：茉莉花
| 作成日時：2018年7月5日 18時
