【d!】欲張りメイド。 (ページ5)

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『エーミールさん』

「あ、Aさん」

『すみません、お待たせしました』

「いえいえ、こちらこそ、わざわざ片付けを手伝ってもらってしまって…」

『これも仕事の内ですから、お気になさらないでください』

Aが向かっていたのは図書館兼資料保管室だった。
普段、ここの管理はエーミールに任せられているが、半年に一度、彼はこの膨大な量の本を順番に戻さなければいけない。
管理人として、ぐちゃぐちゃになってしまった本達をアルファベット順に戻さなければ、それは彼の仕事の内でもあるのだ。
しかし、ここにある本の量は想像以上に多い。
1人でやるにはとてもとても一週間あっても終わることはないだろう。
そこで、本の配置を覚えているAがその手伝いにいつも訪れていた。

「皆さんが毎回同じ場所に返してくれれば困らないんですが…そうもいきませんからね…」

『一度きつく注意するべきでしょうか』

「確かに、この手間は省けますが、Aさんと共にできる時間が減るのは困りますね」

『そうですね、幹部様とじっくりお話をさせていただくことは、私達のようなしがない使用人にとってはとても光栄なことですからね』

「…そうやないんやけどなぁ」

彼はわざとらしくそう溢すが、当の本人はニコニコと本を次々に並べていくだけ。
そんな仕草だけでも魅力的である。
時々本の表紙を見て、懐かしそうに笑う姿なんかは誰が見ても聖母のような美しさがある。
それに見惚れて、その視線が偶に交われば、エーミールの方から逸らしてしまう。
その様子を見て、胸の中で静かにその愛らしさに笑う彼女を誰も知らないのだろう。

「Aさんはいろんなことを知っていますね、好奇心旺盛なのでしょうか」

『いえ、どちらかといえば飽きやすいほうです、何か一つのことに熱中することの方が少ないように思います』

「そうなんですか、何だか意外ですね…何事にも手を抜かない方なので」

『熱中までは行かずとも、仕事であれば最低限度はこなさせていただきますよ』

「そうですか、そうですね、貴女は、きっとそういう人なんでしょう」

エーミールも、優しく笑った。
窓から入ってきた風が彼の髪を撫でて、Aの髪をも撫でた。
彼女は、彼の後ろを飛ぶ蝶々を見つけて、静かに微笑んだ。