▽隠した傷跡 ページ16
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最近、毎夜同じ夢を見るようになった。
私が前世の夫に告白をした時の夢だ。
大学の同じ学科の先輩で言うならば一目惚れだった。
皮肉な話だ、あれほど好ましく感じた姿はどれだけ願っても思い出す事がないというのに。
臆病でまともに声もかけられなかったくせに諦められなくて、ゼミで開催された飲み会の帰りに私は酔った勢いに任せ想いを告げたのだった。
『私、XXせんぱいの事が好きなんです…!』
「それ本当?俺もお前の__」
毎回夢はココで途切れる、この後に彼の言った言葉はなんだっただろうか。
私は己の首元をスリと擦って考え込んだ。まぁ、こういう時は大抵思い出せないのだけど。
『やっぱり消えてないよね』
指を置いた先には微かに歯型を残した鬱血跡。
某脅威的な軍人に付けられたそれは、赤紫色の花弁のようにその存在を主張していた。
『え、《櫻鏡園》を解体……?』
「あぁ、そうだ」
手から落ちそうになったティースプーンを慌てて握り直す、甘いミルフィーユを崩しながら総統は事もなさげに言った。
あの美しい薔薇の園は今年中に、もぬけの殻になるのだそう。
「尤もタダで解放、というわけではないがな」
『……軍事物資との交換ですか?』
「よく理解ってるな」
あらゆる予想の中から一番可能性の近いものを口にすれば、グルッペン様はニヤリと不敵に笑った。
どんなに強国であっても立て続けに戦争をすれば人員も燃料も消耗される。
「すぐにとはいかずとも、恐らくどの国も提案を呑むだろう」
『そうですね……』
「Aはついていなかったな」
国の要人クラスのご令嬢ばかりだった、多少の物資を犠牲にしても政治的価値は彼女達の方がずっと上だ。
彼の皮肉には何て返そうか。
確かに黙って彼処に居れば今頃はヴェネマーレアの物資支援を経て、帰国出来たことは間違えないだろう。
『そんな事ございませんわ』
「……ほう?」
『読める本の量も質もずっと上がりましたから』
真顔で伝えればブハッと目の前の強面は吹き出した、私もそれにのって笑ってやる。
「ふ、くく……そうきたか。うん、そうだな」
『グルッペン様、何か可笑しかったでしょうか?』
「いやァ?……てっきりソレをつけた男の事が惜しくなったのだと思っとったからな」
あ、バレた。
自身の首をトンっと叩いた彼に反射的に、私は鬱血跡を隠すように手で隠した。
流石に目立つとファンデーションを塗っていたけど、彼の目は誤魔化せなかったようだ。
ラッキーゲーム
hoi
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奥山乃愛(プロフ) - niさんやsnさんにも愛されたいです(恋愛的に)無理せずに頑張ってくださいね! (2022年11月2日 16時) (レス) id: fdc1778b4b (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - モモさん» お祝いのコメント感謝申し上げます。途中更新期間が空いてしまい申し訳ありませんでした。ご期待に添えたものであれば幸いです、これからも是非にお付き合いくださいませ。 (2019年11月30日 23時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
モモ(プロフ) - 続編おめでとうございます。リクエストの小説も楽しく読ませて頂きました。ありがとうございますm(_ _)m相変わらず言葉の言い回しが美しく素晴らしい作品だなぁと改めて思いました。冬は何かと忙しい時期になると思いますが、無理をしない程度に頑張って下さい(*^^*) (2019年11月28日 12時) (レス) id: 9f311d580c (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 猫夢さん» こんばんは、好きの一言が何より嬉しいので無問題です…。ありがとうございます。 (2019年11月24日 19時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
猫夢(プロフ) - 語彙力がないけど言いたいので失礼致します。好きです... (2019年11月21日 13時) (レス) id: e485f856c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あん肝ポン酢丸 | 作成日時:2019年9月22日 15時