▼好きと伝えた日▼名前変換オリジナル

6話 ページ6

幸い颯斗は目立つ外傷は無く、至って普通だった。
少しだけ擦り傷があったくらい。
　本人は「転んだ直後、青森に居るお婆ちゃんの顔が見えた」と言っていたが、半分死にかけたという解釈でいいのだろうか。


「じゃあ何する?」


「あ、せっかく校区外に出ていいことになったし、駅の方に遊びに行きたい!」


「いいんじゃない?」


　颯斗の問いに対して、夏菜は手をあげ元気良くそう言う。
3月までは小学生部類だけれど、もう4月だからいいのか、と思いそれに賛成する。


「俺も意義無し」


「じゃあ早速行こう!私一度行ってみたかったんだよね〜!」


鼻歌を歌っているような、上機嫌な笑顔を見せながら、夏菜は自転車にまたがる。
　すると思い出したように、颯斗がパッと口を開く。


「あ、夏菜。行き方は分かるんだよね?」


「んー?適当に行けば、行けるっしょ」


　私達に少しの間が訪れ、カラスが一鳴きした。
そして、私はスッとスマホを取りだし、マイクに向かってこう言う。


「グーダル先生、駅までの道を教えて」


「頼るべきはやっぱ先生だよね」


＿ ＿ ＿ ＿



　ピッポーピッポーと横断信号機の音や、車のエンジン音、人々の喋り声や歩く音。
駅前はその音たちによって、お祭りみたいに賑わっていた。

　駅前の駐輪所に自転車を止め、一息付こうとするが、それどころではない。
　私達が住んでいる地域が元々寒いため、4月の上旬なんて全く暑くないというか、そもそも寒いくらいだ。
なのに、最近の異常気象のせいで今日の気温は例年よりもとても高い。

一言で言うと、凄く暑い。

　汗ばんだ額を袖で拭い、空を見上げると、そこには午前中と変わらず雲一つ無い、青空が広がっていた。
せめて雲があれば、憎たらしい日光を防いでくれたのに。


「実久留、眉間にシワ寄りすぎ」


「え、嘘だ」


「ホント、ホント」


　夏菜は軽く笑いながらそう言った。
颯斗も私の顔を覗きこみ、ホントだと呟く。


「全然意識してなかったんだけど」


「この暑さにイライラでもしてたんじゃない?」


「イライラはしてない。ただ日光がウザイなって」


それはイライラしていたのでは……とボソッと呟く颯斗を睨み付ける。

　ふと全然会話に参加してこない晴の方を見ると、思わずギョッとしてしまった。
だって一番暑そうな黒いパーカー着てる人が、涼しげな顔しているんだから。

コイツ体温大丈夫か……いや大丈夫じゃないな、と自分の中で決めつけた。

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