春の花嫁 (ページ2)

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第1話ページ2

朝の日差しがふんわりと店内に入り込む午前6時。

得意気に鼻歌なんか歌っちゃって、私は今日も浮かれ気分。

こなれた手つきで調理器具を並べる。

全て並べ終えることを確認すると、次は窓、流し台、ショーケースなど、チェックポイントに目を通していく。

日光に反射して、あたりがキラキラと光る。

『目立つ汚れも無し…と』

満足気に頷き、窓際に申し訳程度に設置された木製の椅子へと腰を掛けた。

落ち着かない心を宥めるかのように、何度も携帯で時刻を確認し、数字が1つ動く度に私の鼓動も自然と高鳴る。

多分、もうそろそろで……。

カランッ

大野「…あ。おはよう、Aちゃん。今日も早いね」

ベルが心地良く鳴り響き、眠たげな瞳をこすりながら店内へと足を踏み入れる彼。

『おはようございます！』

彼はここのケーキ屋の店長であり、パティシエであり。

＿＿＿＿＿＿＿＿私が惚れた人。

彼は恋する女の子特有の、何段階も煌めき出す瞳にすら気づかずいつものように寝癖付きの髪を手で崩した。

相変わらず綺麗な指に思わず見入る。

すると私の目線に気づいたのか、少しはにかんで、言った。

大野「……見すぎ」

『っあ、す、すみません…！』

思わず決まりが悪そうに下を向き、行き場のない両手をギュッと握った。

そんなまだまだ青すぎる私の片想いは、進展の“し”の字も見つけることは困難なようだった。