とある六つ子を養うことになりました (ページ9)

今日:2 hit、昨日:18 hit、合計:1,719 hit

▼ ページ9

▽

少し、昔の記憶が戻ってきた気がする。

私が知ってるお姉さんは、
あの遺影の中の写真よりもシワやクマが少なく、

可愛いくて綺麗だった頃の姿。

『私ね、結婚するの！』
『けっこん？』

『ハッキリ言えた！Aちゃんは凄いね！！

そんな凄いAちゃんには最初に教えてあげる！

あのね、
私はね、
好きな人と結婚して、
それで子どもを産んで幸せな家庭を築く計画があるの！』

『その時には、Aはうちの子の＿＿＿＿＿になってね！』

その時の私は物心が芽生えたばかりで、
まだ結婚が何かあんまり分からなかったけど、

でもその時の柚音さんの笑顔は

『ふふっ、どうしたの？』
小さい私が手を伸ばして掴みたいくらいに

綺麗だった。

ツーっと頬が冷たくなった。
同僚さんは嗚咽を漏らしていた。

私たちが何を思っているのか知らずに、

あの人達は話し続ける。

「てかあの子ども可笑しくない？」
「怪我はしてなかったんだって」
「怖いわ。つまり母親は死んだのに子どもは無傷だったってこと？」
「えっ、それって怖くない？何で無傷なのよ」
「分かったわ！あの子死神なのよ。
あの女の子どもだもの！！間違いな＿＿＿」

「…ｯうるせぇ！！」
子どもがそう叫ぶと私たちの合間を通り、
外へと出て行った。

周りはオロオロとしていたがすぐに元の調子に戻った。

でも私は動けなかった。
何か、余韻が残った。

あの子の走り去る姿…。

まるで、アニメのワンシーンのように時の流れが遅かった
というより、あの子の姿にどことなく既視感を感じた。

なんだ、一体。

胸の奥がドクンドクンとうなっている。

そんな状態の私を元に戻したのはあの憎らしい声だった。

「あら、悪魔の子がどっか行ったわ」

「聞こえてたのかしら？」

「え？ずっと聞き耳立ててたってこと？やだぁ」

「やっぱ流石柚音さんの子どもね」

「ああいう言うだけ言って逃げるの、本当にそっくり」

「私たちも殺されちゃうんじゃない？」

嘲笑う彼女達の姿が思い浮かんだ。
もう、耐えられない。

私の足はあの集団へと動いていた。

同僚さんが慌てて止めようとしたが、
私は精一杯の笑顔を浮かべて彼女を椅子に座らせ、
持っていたハンカチを渡した。

『その時には、
Aはうちの子の＿＿＿＿＿になってね！』

あぁ、あの時なんて言ってたんだろ。