【バディファイトX】混沌に生まれて忍 (ページ5)

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肆、稽古ページ5

斬夜は朝から道場で瞑想をしていた。しんと静まり返った空間。自分の息さえ聞こえるほどだった。
　不意に人の気配を感じ、目を開けて振り返った。
　道場にかぐやが入ってきたようだった。彼女は斬夜の存在に気付くと近寄ってきた。
「兄上」
　かぐやは真っ白な道着を身に着けている。女子の道着姿を初めて見たので動揺してしまったが、それ以上に彼を驚かせたのは、暁以外の者に兄と呼ばれたことだった。
「やはり、兄と呼ぶのは馴れ馴れしすぎるでしょうか?」
　遠慮がちに言うかぐや。斬夜は眼鏡を直してから答えた。
「構わない。ただ、少し驚いただけだ」
　斬夜の答えを聞き、かぐやはほっと肩を下ろした。
　それからしばらくの間、沈黙が続いた。そのうちに気まずくなり、かぐやが口を開いた。
「そういえば、暁はどうしたのですか? 朝食の時には元気そうでしたが」
　そう言われて、ふと時計を見る。いつの間にか、稽古を開始するはずの時間を過ぎている。まさかと思った斬夜は、自身の竹刀を掴んで道場から走り去った。

　すぐに斬夜が暁を連れて帰ってきた。暁は耳を引っ張られて痛そうにしている。
「申し訳ござらぬ、申し訳ござらぬ」
　かぐやはこの光景を微笑ましく眺めていた。

　防具を着け、準備運動を済ませ、稽古が始まる。斬夜はかぐやが稽古についてこられるかどうか心配していたが、開始直後、その心配は無用だったことを悟った。
　基本打ちを一通り済ませてから、二分間の模擬試合が行われた。
　暁の始めの合図で斬夜とかぐやが蹲踞の姿勢から立ち上がった。その瞬間、斬夜は今まで感じたことの無いほどの緊張感を覚えた。お互いに牽制し合い、相手の隙を探る。しかし、どちらも好機を見出せず、硬直状態が続いた。
　止めの合図。蹲踞から竹刀を納め、一礼。道場は緊張状態から開放された。
　その後の暁とかぐやの試合で、斬夜はさらに違和感を覚えた。まるで、本物の戦場を経験してきたような剣捌きで、暁を圧倒していた。暁は、斬夜にこそ劣るが、小学生の中では割と強いほうだ。斬夜は無意識に、かぐやへの警戒を強めていった。

　稽古を終えた後、斬夜はかぐやに、あることを訊ねようとしたが、止めた。暁と楽しそうに話している彼女から、稽古の時のような気迫は感じられなかった。
　疑問を抱えたまま、彼は道場を後にした。