明日，君のいない世界で。 (ページ7)

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ショーが終わると，空はオレンジに包まれていた。

北「もう結構暗いね。」
ジ「ほんとだ。一日ってあっという間。」
北「平日は長いのにね。」
ジ「ははっ，間違いない。」

席を立つ時，さりげなく差し出された君の手を
照れているのがバレないようにそっと握って。

その手はまた，何事もなかった素振りで離れていく。

ジ「北斗と手を繋いで歩けないって，いやな世界だよほんとに。」

珍しく愚痴をこぼすジェシーだけど，俺にはそれすら愛に思えた。

予定よりも長く滞在した水族館を出て二人で歩く。寝坊したおかげで予定も何もないけれど。

道沿いの売店に立ち寄ってみたり，目に入ったお店に入ってご飯を食べる。言葉にするとたったそれだけのことなのに，お腹を満たして外に出た頃には綺麗に月が浮かんでいた。

夜の江の島はお昼に比べると少し大人だ。

ジ「はぁ，お腹いっぱい！」
北「美味しかったね。」
ジ「うん。やっぱり北斗は味噌汁飲むのが綺麗だよね。」
北「ははっ，それはどうも。」

桜並木の下を歩きながら，なんてことのない話をする。

水族館の魚たちに嫌われたくない，と結局カレーを食べたジェシーの話とか。
売店のおばちゃんがジェシーがイケメンだから。ととんでもない高さのアイスクリームくれた話とか。

今日一日を思い返して笑いながら進む道は，誰が見ても綺麗な夜桜に彩られた。

北「こんなに綺麗じゃなかったけどさ，あのお店からも桜見えたよね。」
ジ「お店ってカフェのこと？」
北「そうそう。今の俺なら綺麗だと思うのかな。」
ジ「…どうだろうね。」

こんなことを言ったら，またこの人を調子に乗せてしまうかもしれないけれど。

北「ジェシーと会うまで，そこに桜の木があることにも気付いてなかったんだ。」

立ち止まって見上げてみる。
空が見えないほどに散りばめられた花たちに，
いつかの君が重なって見えた。