明日，君のいない世界で。 (ページ44)

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泣いているのをバレないように，俺は樹に背を向けた。
樹もどうしていいか分からなかったのかもしれない。

大「…もう，寝る」
樹「…うん，おやすみ」

今の俺達の間の会話はこれだけだ。

本当は話したいことがたくさんあるのに，その1つを口に出すこともできない。
仕事のことも，家のことも聞いて欲しい。

樹の話だって聞きたいのに。

寝室のベッドで布団にくるまって，声を殺して泣いた。

もし歯車がこのまま少しずつズレていって，狂ってしまったらどうなるのだろう。
そう思うと，怖くて，眠りたいのに眠れなくなってしまう。

助けてよ，樹。

そんな言葉が頭に浮かび，押しつぶされそうになる。
今まで，嫌なことがあっても樹が心の支えになっていた。
だから，樹のことで悩んだときの対処法を，俺は知らない。

喧嘩したわけじゃないし，浮気されたわけでもない。
樹が悪いだなんて思わないし，樹を攻撃したいわけじゃない。
もう，どうしていいか分からなかった。

樹「きょも」

樹が寝室に入ってきたらしい。

俺はそのまま，息を潜めるようにして背を向けたままでいた。

樹「…寝てるの」

溜息をつくような，決め込んでいるような言い方。
俺は「寝てない」と小さな声で返した。

樹「…あのさ」
大「何」

少し間があいて，樹の手が遠慮がちに俺の頭を撫でた。
樹に触れられるのが久し振りで，変な感じがする。

樹「きょものこと，ちゃんと好きだから」
大「…好き？」
樹「うん。出会った頃からなんにも変わらないくらい，好き」

それは分かってる。
分かってるんだよ，樹。

そう言い返したかった。