明日，君のいない世界で。 (ページ29)

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葬儀屋になって4年が経つけれど，今まで寄り添ってきたのは「遺される」人だったのだという事実を唐突に知らされた気がした。

愛する人を遺していく方も，きっと同じくらい辛いのに。

そう思ったら，どうにかして電話の奥の彼の助けになりたかった。

樹「…お名前を伺っても？」

ジェシーです，と返事が返ってくる。
ジェシー，という彼の名は，まだ顔も知らないにも関わらず，彼によく似合っているような気がした。

樹「ジェシーさん。素敵なお名前ですね」
ジ「へへ，そうかな」
樹「…僕は樹です。樹木の樹，でじゅり」

そういえば，きょもに出会ったときもこうやって挨拶したな，と昔のことを思い出した。

ジ「…それで，お願いはできますか」

もう何も揺らがない，真っ直ぐな声が聞こえた。
俺は，この人の葬儀を遂行する義務がある。このために葬儀屋になったのではないかとさえ思えた。

樹「…僕が手伝います。ジェシーさんの葬儀，僕に任せてください」

ジェシーさんは，お願いします，と小さな声で返事した。
それから心のこもった声で「ありがとうございます」と重ねた。

それから，連絡先や予算などとりあえず必要な情報を聞き出し，一旦電話を切る。
詳しくはまた連絡させていただきます，と伝えた。

優「今の電話は？」

コーヒーカップを俺に差し出しながら，高地さんが尋ねてくる。

樹「あ，その……これから，旅立つ方でした」

俺の説明に，高地さんは首を傾げた。事情を説明すると，そっか，と溜息が漏れる。

優「生前予約か。…最近増えてるらしいね」
樹「そうなんですか」
優「連絡，こまめに取れよ」

俺はさっき聞いたばかりのジェシーさんの連絡先を指でなぞった。