22枚目 ページ22
現地の人間が身柄を引き継ぐというからには逆スパイでも仕立てるつもりなのだろう。甘利は残りの頁を素早くめくり一読し終えるとそのまま結城中佐に返却した。必要な情報はすべて頭に入れる。証拠となる紙の資料は一切残さない。それがD機関のやり方だった。
アメリカに渡った内海は、ルイス・マクラウドがジェフリー・モーガンの偽名で朱鷺丸に乗船しようとしていることを突き止めた。米西海岸から日本に向かう船の数は限られている。乗船チケットはすべて予約制日本に船で向かうことが判明している以上、いくら顔を変えようともD機関で訓練を受けた内海の目にはアメリカ人貿易商ジェフリー・モーガンがイギリス人ルイス・マクラウドの偽装であることは明らかだった。
だが、サンフランシスコ港を出航直後から朱驚丸を襲った酷い風のせいで内海はマクラウド氏と二人きりで話をする機会を見つけられなかった。もとより、標的との接触を偶然に頼るつもりはない。乗船当初は、船内のレストランや喫煙室で偶然を装って近づき機会を見て二人きりで話をつけるつもりでいた。
だが、激しく船が揺れ動く中で船酔いに悩まされる乗客の多くはレストランやバー喫煙室にさえ姿を現さなかった。そしてやっかいなことにマクラウド氏もといモーガン氏もその中の一人だったのだ。内海はそこでボーダーの服を拝借し給仕係を装いマクラウド氏の船室に入ることを試みたが、マクラウド氏はなぜか何人といえども部屋に入れようとしなかった。
部屋の掃除は拒否。必要な品はドアの前に置かせてしかも、覗き穴から通路に人気がないことを確認し素早くドアを開け部屋の中に引き込むという用心深さだ強引にことを運んで騒ぎ立てられては元も子もない。ようやく風が収まった後、ハワイ入港直前の一等船客専用デッキはマクラウド氏に接触する最後のそして恰好のチャンスであった.内海は解きかけのクロスワードパズルという餌を使うことでマクラウド氏を見事に捕獲し、無効化した作戦終了そのはずだった。
おそらく、マクラウド氏が死ぬ直前に口にした飲み物が原因となり死去。白く口の端から垂れる泡を拭いて、見開いた瞼を閉じさせる。その上で臨検のために乗船してきた九名のイギリス人水兵を観察し適当な相手を選び出した。あの水兵が内海に声をかけたのは偶然ではない。内海のちょっとした動作が本人にも気づかない形で注意を引きつけたからだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 15人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カナリアナ | 作成日時：2019年3月28日 23時
