36枚目 ページ36
「早速だが君にやってもらいたいことがある」そう言って運ばれた通信用のモールス信号機を目の前に出された。「これを使って本国に暗号文を打電するのが君の初仕事だ」マークス中佐の言葉に伊沢は力なく顔をあげた。「打電内容はこちらで用意した。要らぬお節介だと思ったが打電内容を暗号化しモールス符号に変換するところまでこちらで済ませてある」
そういうことか。マークス中佐の意図を察して伊沢は唇を噛んだ。偽情報を信じさせることができれば敵国に多大な損害を与えることができる。「どうしたんだね」マークス中佐はためらう伊沢に声をかけた。「何を迷っている、簡単な仕事だ。それともまさか君は」マークス中佐は意地悪く笑い。伊沢はモールス信号機へ手を伸ばした。いくつもの監視の目に晒される中で伊沢は祖国である日本へとモールス信号の打電を済ませた。文中の最後の機械音が消えた頃。「よし、これで君も晴れて我々の仲間だ」マークス中佐が軍服姿の男に声をかけた。「向こうで食事をさせてやれ。加えて手錠を忘れるな」と指示を出した。伊沢の横を体格の良い男が威圧感を出して立っている。
精根尽きたように無言だった伊沢が、男の後についてとぼとぼと独房へ移動する。廊下の途中でふと、足を止めてトイレに寄りたいと申し出た。軍服の兵士は廊下を右へ進むように伊沢に無言で顎をしゃくって見せた。伊沢はのんびりとした口調で「......向こうの角にもトイレがあるはずだ、あっちの方が近いんじゃ無いのか」と尋ねた。思わずその質問に反射的に頷きかけた男の顔に、伊沢に対する不審げな色が浮かんだ。「なぜそんなことを知っている」伊沢はその言葉を無視する様に歩き出した。監視役の男はトイレのドアを開け、入り口で伊沢の背中を乱暴に押した。
男が伊沢の後ろ姿が何かぶつぶつと呟いているのに気がついた。耳を澄ますと「......要するに作用と反作用。テコと遠心力の原理なんだよな」それは監視役の男には聞き取ることが難しい声量だった。「なんだ、貴様。何を言っている」兵士の声がタイル張りの狭いトイレの中にこだまする。その声に反応を見せない伊沢は洗面台の前に移動し手を洗い始めた。しかし突然、伊沢は鏡を指して何度も繰り返し声をあげた。「どうした、何があった」先程からの伊沢の異様な様子に兵士の男は大股で歩いて、伊沢の元に詰め寄ろうとする。この異変の正体を突き止めようとしたのだ。
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カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね！！自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます！！ (2019年12月9日 21時) (
レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです！！ (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カナリアナ | 作成日時：2018年12月12日 21時
