〃【3】 ページ4
「私が選んだんだ、ここは私が、」
「いいから俺に出させろ、財布しまえ」
「…私だって合歓にプレゼントしてやりたい」
「じゃあ次のカフェで出せ、ここは俺が出す」
久々に会った可愛い妹に何かしてやりたいのはよく分かる。
分かるが、俺にだって譲れないものがあるわけで。
「…惚れた女に財布出させるなんざダセェだろ」
本当は一銭だって出させなくないが、それだとこいつも納得しないだろう。
俺の言葉にAは、きょとんとした後苦笑いを浮かべて手を離す。
「なら、二人きりの時は存分に甘えさせてもらおうかな」
最後にそんな事を言って、着替え終わった合歓の元に戻っていく。
「…言ったな、覚えとけよ」
Aは軽口のつもりで言ったんだろうが、絶対忘れてやらねぇ。
人を甘やかすばかりで誰かに甘えているところなど見たこともない。常に気を張る立場故だろうが、もうあいつは俺のもの。いつか呆れるほど甘やかしてる、と心に誓った。
---------
「んんーっ美味しい‼」
「本当だね、合歓がチェックしていただけある」
クリームやフルーツで彩られたパンケーキを幸せそうに頬張る合歓。それを見守るAの前にはアイスとシロップがたっぷりのフレンチトースト。
若干の胸焼けを覚えたがコーヒーで紛らわし、ローストビーフのサンドイッチを頬張る。
…ん、悪くねぇ。流石俺たちの妹。店選びも完璧だ。
ふと合歓の動きが止まり、じっとAを見つめる。
「…お姉ちゃんのも美味しそう…」
「食べてごらん。とても美味しいよ」
合歓の呟きに綺麗に笑ったかと思えば、とても自然な流れでフレンチトーストを一口大に切り、合歓の口元に差し出した。
意図を読み取った合歓が僅かに頬を赤くする。
「もう…子供じゃないのに…」
「ふふ…ごめんね、合歓があまりにも可愛くて、つい甘やかしたくなってしまう」
慈愛に満ちた漆黒の瞳はとても美しい。ズルい女だ。俺も合歓もその目にめっぽう弱い。Aがくれる無償の愛を無下に出来るわけが無い。
その眼差しを一身に受ける合歓は、顔を赤くしたまま暫し固まった後、何か思いついたようにイタズラな笑みを浮かべる。
合歓の意図が読めず疑問に思っている間に、Aが差し出したフレンチトーストをそのままぱくりと頬張った。
15人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:和三盆糖 | 作成日時:2020年10月18日 20時