好きだと伝える魔法があれば 《前編》

F 18 ページ18

皆にこれ以上迷惑がかかる前に

ちゃんと時間を進めないといけないのかもしれない。


だとしたら…

限られた時間で、北山と思い出が作りたい。


消えてなくなってしまう記憶かもしれないけど

それでも北山と一緒に過ごした時間が欲しい。


それが、俺の求める物。


『…北山、あのさ』


「ん？」


『俺さ、心残りのことが沢山あるんだ。

それが出来たら、元の体に戻れるんじゃないかな』


俺の発言に、ビールを机に置き、険しい顔をした。


「なんだよ、それ…

…言い方悪くね？

…心残りがなくなれば、それって…」



北山が言葉を濁す。


うん、そうだよね、言えないよね。


『そうだね、死んでしまうのかもしれない』


変わりに答えた。


「じゃあ、心残りのことなんて…やる必要ないっっ！」

突然声を荒げて立ち上がり、涙目で俺を見る。


北山が…俺のことで真剣になってくれてる。

死ぬなって、言ってくれてる。


『でも、死なないかもしれない。

いつもなら出来なかったことを…

時間のある今、しなさいってことかもしれないよ？』


納得してないようで


「わかんねーなら、する必要ないだろ…」

と拒否してくれる。


俺が北山の立場でも、同じように怒っただろうな。


『俺は…後者に賭けてやってみたいんだ』

なぁんて、北山を納得させるためだけの言葉だけど。


『何もしなくてこのまま消えていくなら、

やりたいことをやって、消えたい』


こっちは本心。


北山の傍で
北山のことを感じていたい。


「藤ヶ谷…」


『だからさ…付き合ってほしいんだ、心残りのこと』


「でも…」


『北山と一緒に…ひとつずつ叶えていきたい』


「藤ヶ谷…」





少しの間、考えるように俯いていた北山は
突然机の上に置いたビールを取り、一気に飲み干した。


「わかった！

藤ヶ谷のやりたいこと、しよう！！」





こうして俺は、北山の傍で過ごすことになった。



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