好きだと伝える魔法があれば 《前編》

K 9 ページ9

眠る藤ヶ谷の上に浮かぶ、同じ格好をした藤ヶ谷。



え？



これ、何？


俺の幻聴は、幻覚まで生み始めたのか？


『北山？

…驚いてるよね？』


いつもより、幾分か柔らかい表情の藤ヶ谷。


久しぶりに、動く藤ヶ谷に会っている。



いや、会ってるのか？幻覚か？



目をぎゅっと閉じて、再度開ける。



でも、浮かんでいる藤ヶ谷の姿は消えることはなかった。



「…ふじ…がや？」


『北山…

よかった、気付いてくれて』




「気付くもなにも…


え？

どういう…こと？」



『んー、俺もよくわからないんだよね。

さっき、目が覚めた。

目が覚めたらさ、俺が寝てるからびっくりしたよ。

…俺、怪我したんだ？』



現実なのだろうか…



本当に藤ヶ谷？



「あぁ…

傷は縫ったから大丈夫。

藤ヶ谷が目覚めるのを待ってんだけど…


おまえ、起きねぇからさ」


俺は藤ヶ谷に話してるのか？


『起きないって…

あれから何日か経ってる？』


「…３週間、くらいかな」


『は？！

そんなに寝てるの？！』


「……そのまま、身体に戻れば目覚めるんじゃね？」


『やってみたけど、無理なんだよね』


それにしても…


「なんか…冷静だな、藤ヶ谷」


『んー…目覚めてさ、一応戻ろうと試みてダメだったんだ。

俺、死ぬのかなぁ？って、ちょっと他人事みたいに考えてさ。


…さっきまで色んな所、行ってた。


実家行って、

スタジオ行って、

友達のとこ行って、

…メンバーのとこも行ったけど、

呼んでも、誰も俺に気付いてくれなかった。


幽霊って、こんな感じなのかなって。



…で、此処に戻ったら、北山がいた』



藤ヶ谷が俺に近付いてくる。





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