キミの悲愴/shp ページ6
・
※本編に追加した訂正をお読み頂ければ幸いです。
・
「わぁ、久しぶりだなぁ」
「ほんとですね。...しっかし、変わってへんなぁ」
ある冬の日の夕方。
俺はAさんを連れ立って母校に訪れていた。
2人で出かけたいなんて下心もあったのだが、彼女のピアノがどうしても聴きたいというのが一番の理由であった。
薄汚れた階段を上る度、美化された記憶が塗り替えられていく。
先に見えたのは第一音楽室。
先輩ははしゃぎながらその扉を開いた。
「...懐かしいなぁ。このピアノ」
「先輩、弾いてみてくださいよ。」
俺の提案に多少渋った彼女も、押しに負けて渋々弾いてくれることに。
椅子に座った彼女は静かに鍵盤部の蓋を両手で開き、流れるように指を動かし始める。
跳ねるようなリズムに、哀愁が絡み合う。
何ものにも形容しがたいこの曲を聴いたのは、この日が初めてであった。
...
「悲愴」
2分ほどの短い演奏を終え、Aさんは嫋やかな髪を揺らしながらこちらを向き、呟いた。
「ひそう...？」
「この曲の名前。スクリャービンの、悲愴。」
初めて聞く名前に少し戸惑いながらも、何か語りたげな彼女の意を汲み、耳を傾ける。
「初めて聴いたのは小学生の時、有名なピアニストのコンサート。...あの時は、まだ夢もあったのになぁ。」
...なんて、長話はやめ！行こ！
”夢”という単語を口にした時の彼女は、確かに涙目だった。
多くは語らない彼女が好きになったのも事実。
もっと頼られたいと思うのも事実。
あなたにそんな表情をさせるモノを一緒に背負う事は、俺にはまだ早いらしい。
教室を出る時、ふいに後ろを振り返ってみた。
ピアノが窓からの光を反射する。
眩しいぐらいの光の中に、朧気に小さな少女の姿を見た気がした。
楽しそうにピアノを弾く少女の姿を。
しかしそれも、一介の妄想に過ぎないのだろう。
正面に向き直り、俺は既に階段を降り始めているAさんの後を追った。
...
あなたに相応しいpitiful
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 373人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
優衣 - このお話大好きです！これからも更新頑張って下さい！ (2019年7月29日 15時) (
レス) id: 0243483252 (このIDを非表示/違反報告)
ちりん(プロフ) - かのんさん» コメントありがとうございます！おお、凄い縁ですね笑^ω^ これからもどうぞよろしくお願い致します。こちらの元の作品もぜひどうぞ。 (2018年12月14日 0時) (レス) id: e28413ab8a (このIDを非表示/違反報告)
かのん(プロフ) - このお話好きです！そして、偶然にも私の苗字中村です笑そこが嬉しいところでもありました！更新頑張ってください！ (2018年12月13日 23時) (レス) id: 5c739f38cd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちりん(南野なつ子) x他1人 | 作成日時：2018年12月13日 21時
