引き立て役の私だって主人公になりたいとか思ったけど夏終わるし諦めよう。

17.重ねられた手 ページ17

＊





「よし、行こ」







その小瀧さんの1言で、進み出す。

小瀧さんは携帯片手に、"行きたかったタピオカ屋さんあんねん！"って言いながらワクワクしてて。



行きたかった、って言うぐらいだから、今日を楽しみにしてたんだろうな。

そんな楽しみ、隣が私でいいのだろうか。




脳裏に過ぎる不安が隠しきれないまま到着したタピオカ屋さん。

もちろんの如く、人気ってあってか人が並んでて。


でもちょうど日陰だから、暑いのを我慢しながら2人で並ぶ。







「瀬良ちゃんってタピオカ初めて？」


『あー……まあ、はい。流行りには乗らないタイプで』


「本物のタピオカはまじで美味しいから。あー、俺のおすすめは、この紅茶っぽいのなんやけど……」


『タピオカって偽物もあるんですか？』


「あるで。偽物は……なんか、まずい」







一瞬、偽物のタピオカを思い出したのか、苦い顔をする小瀧さんが面白くて、思わず吹き出す。

小瀧さんは"え、今の笑う要素あった？"って困りながら頭を掻く。







『すいません、っ、あまりに、ふふ、苦い顔をしてたので』






食べ物のために長く並んで待つ、なんて嫌いだけど

小瀧さんなら、少しはいいかなって、苦じゃないかな、って、"だってほんまに不味いんやもん"って必死な小瀧さんを見て、ふと思った。






＿＿






「こちらタピオカふたつになります！」







長く待った甲斐もあり、やっと手に持ったタピオカ。

大きいストローでタピオカを吸い込んでみると、食べたことない味と面白い食感。


飲み物もピッタリ合ってて、本当に美味しい。


つい、嬉しくて小瀧さんの方を見ると

"嬉しそう"って笑っていた。







『美味しいです！』


「そ？ならよかった。不味いって言われたらどうしよか思ったわ」







"その時は小瀧さんに飲んでもらいますよ"

冗談半分でいえば、本気にして。


やっぱり可愛いな、って思いながら美しい方顔を見てると、不意に重ねられた手。


それは紛れもなく小瀧さんの大きな手で。


驚いて上を見上げれば、"にひ"って意地悪く笑う小瀧さん。






『っ、！』







本当は、嬉しいはずなのに。

その手は確かに、暖かかったはずなのに。



私は重ねられた手を、振り払っていた。

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