引き立て役の私だって主人公になりたいとか思ったけど夏終わるし諦めよう。

16.巻いた髪の毛 ページ16

＊





『じゃあ……行ってくるね？』


「門限5時」


『私は子供かって』


「俺が寂しいんじゃ」


『はいはい、夜はちゃんも帰ってくるから』


「やないと困る。将来の嫁さんなんやから」







私のお気に入りのクッションを抱きしめ、玄関前でそう言う。


サラッとこんなこと言えちゃう智洋は、やっぱり私以外に経験済みなんだな〜って思い知らされる。

その点私は……。



経験済みどころか、彼氏いない歴を更新中。

まあ、全部引き立て役ってところで。







『……変、じゃないかな』







小瀧さんに会う。

あの美しい小瀧さんに。




そうとなればお洒落せず、いつもの私で行ったら"隣の女誰？ダサすぎない？"ってなってしまう。

いや、元々小瀧さんの隣に私は相応しくない……っていうか、別にタピオカ買いに行くだけだし。





でも、

少しでも小瀧さんに合うように、背伸びしてみたくて。


あの時のように髪の毛なんて巻いちゃって。

でもこれは智洋が"俺やるから"って無理やりヘアアイロンを奪われただけで……



……想像以上に可愛かったから、文句はなかったんだけど。




智洋の器用さを少しでも分けてほしいな、とか思った。

料理はできるし、ヘアセット、ヘアアイロンまで使いこなして。

おまけにザ、理想の男子って感じでかっこよくて。






つくづく、私の、女子力のなさに嫌気がさす。







「あ、瀬良ちゃん！」







風で乱れる髪の毛を整えながら小走りで向かうと、もう既に着いていた小瀧さん。

いつより……なんというか、服の系統が違う。



かっこよすぎて、美しすぎて、直視できないまま俯くと

"どうした？"なんて顔を覗き込まれる。




私は驚いて1歩下がると、ひらりと揺れた髪の毛を見て、"今日の瀬良ちゃん、可愛ええ"なんて優しい笑顔。

"いつもとちゃうね、髪の毛巻いてきてくれたん？"って……なんとド直球な。







「あの服装は……」


『黒歴史なのでタンスの奥の奥に眠ってます。呪文唱えたので解除は不可能かと』


「厨二病？」






髪の毛巻いたって、あの時の服は勘弁。

どんなに美しい小瀧さんのお顔で頼まれても、あれだけは。

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