検索窓
今日:7 hit、昨日:15 hit、合計:160,733 hit

第二十一話 ページ23

「…そう。残念だけど仕方ないね。話したかっただけだから、もう下がって良いよ」

『はい』

私は立ち上がり、障子に手を掛ける。そのタイミングで、名前を呼ばれた。

「Aが敵では無い事は分かっている。だから、少しは言葉にした方が良い。君のいた場所、その他の事を」

私は振り向いてお館様を見つめる。私の姿なんて見えていないだろうに、全てを見透かされそうだ。変わらない表情が、全部知っていると私に伝えているようだった。

『…心に…留めておきます』

ドクドクとなる心臓を落ち着けながら、私は返事をして今度こそ部屋を出る。

私がこの世界の人間じゃないとは思わないだろうけど…。曖昧な事ばかり言っているから怪しいに決まっているよね。


屋敷を出れば、1人の少年が佇んでいるのが見えた。

『むいくん…!』

名前を呼べば彼はすぐにこちらを向いた。私はむいくんの元へ急いで駆け寄る。

『待っててくれたんだ』

むいくんは私の顔を見た後、その視線を私の腕へとずらす。

「……怪我は…」

『あ、手当てして貰ったから全然大丈夫!』

笑って伝えるが、むいくんの顔はどこか怒っているように見える。

「…馬鹿でしょ。考え無しに飛び出て腕を切って。稀血なのに…下手すればあの鬼に傷付けられたかもしれない」

『……でも、禰豆子ちゃんは人を喰べないし』

「そんなの分からない」

…分かるもん。その理由は言えないけど。

『結果的に私は無事だったからもういいよ』

だけど、むいくんは納得するどころかもっと顔を険しくする。

「…僕の小さな怪我は大袈裟に心配した癖に」

『それは…!むいくんが怪我するのが嫌だから…』

「…同じだよ」

え?と首を傾げる私の手をそっと取るむいくん。ドキッと胸が大きく脈打った。


「Aに、勝手に怪我して死なれるのは…嫌な気分なんだよ」


そして私の腕を引いて歩き出す。怪我をしていない方の手、という事に彼の気遣いを感じた。
前にいるから顔は見えないけど、それで良かったのかもしれない。多分、今の私の顔は真っ赤だろう。


『(あ〜…やばい)』


むいくんへの想いが募りすぎて、溢れてしまいそうだ。

第二十二話→←第二十話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (109 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
167人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

uru(プロフ) - 愛NAさん» ありがとうございます!自分ではまだまだと思っているのですが、そう言って下さり嬉しいです!!これからも頑張ります! (2020年8月18日 19時) (レス) id: 275269a074 (このIDを非表示/違反報告)
愛NA(プロフ) - 小説の書き方上手過ぎませんか…??ちょっとシリアスだったり面白かったり、何かもう色々と凄って思いました。陰ながら応援させて頂きますね…! (2020年8月18日 18時) (レス) id: d66500f3cb (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:憂流 | 作成日時:2020年8月2日 15時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。