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第十二話 ページ14

あの後、私が落ち着いてから2人で屋敷へと戻った。自分の格好を見れば、雨や泥で汚れてみっともなかった。くしゃみをすれば、むいくんは私を一瞥する。

「…早く風呂に行きなよ」

『むい、くんは…?』

「僕の事はいいから」

そう言うと、私の頭にタオルを被せる。ぶっきらぼうだけど私の事を気遣ってくれているのが分かった。

私はなるべく急いで体を洗い流し、新しい着物に袖を通す。

『リボン…汚れなくて良かった…』

雨には濡れたが、汚れてはいないようだった。むいくんが選んでくれた大切なリボンだから。

部屋に戻れば、私と入れ違いにむいくんは風呂場へと向かう。

…むいくんは怒っているだろうか。勝手に屋敷を出て、急に泣いて。

手鏡で自分の顔を見れば、散々泣いたせいか目元が赤くなっていた。本当にどうして泣いてしまったのだろう。屋敷を出て行くむいくんが…あの人に重なったのだ。

…怒ってるよね。きっと。

迷惑ばかりかけている気がする。私は大好きな人といれて嬉しいけど、むいくんはそうじゃないから。でも…此処を離れても行く場所なんてない。

『……どうするのが正解なんだろ…』

「…何言ってんの」

いきなり声が聞こえて来て驚いた私の顔に、何かが投げられた。顔を押さえながら床を見ると、薄紫色の巾着のような物が落ちている。

「それ、肌身離さず持ってなよ」

まだ髪が少し濡れたままのむいくんが、部屋の中に入って来た。

『これ…何?』

「…藤の花の匂い袋」

藤の花の匂い袋…。聞いた事がある。確か漫画にも出てきた。


「A。アンタは稀血だ」


驚きはしなかった。私は他の世界の人間だから、稀血なのも納得いく。

『…そっか…』

私は匂い袋を握り締め、むいくんの顔を見る。

『さっきはごめんね…。私、雨だけは無理なんだ。雨の日に1人で居るのは…』

「…無理して言わなくていいから」

淡い青色の目に見つめられ、私はまた泣きそうになった。

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uru(プロフ) - 愛NAさん» ありがとうございます!自分ではまだまだと思っているのですが、そう言って下さり嬉しいです!!これからも頑張ります! (2020年8月18日 19時) (レス) id: 275269a074 (このIDを非表示/違反報告)
愛NA(プロフ) - 小説の書き方上手過ぎませんか…??ちょっとシリアスだったり面白かったり、何かもう色々と凄って思いました。陰ながら応援させて頂きますね…! (2020年8月18日 18時) (レス) id: d66500f3cb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:憂流 | 作成日時:2020年8月2日 15時

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