第百六話 ページ9
私が12歳、お姉ちゃんが19歳の時。
雨の降る休日だった。
お姉ちゃんは大学生になったが、相変わらず身体は弱いまま。薬は欠かせないし、病院にも頻繁に通っていた。
その日の私は、少し機嫌が悪かったのだ。
「A、ゲームばっかりしてないで宿題しないと」
お姉ちゃんの言葉がいつもより苛ついたのだ。
『ーッうるさい!いいよね、お姉ちゃんは頭が良くて何でも出来るんだから!本当の姉でもない癖にそんな事言わないでよ』
普段は絶対に言わない事を口走ったのだ。
喧嘩なんて、ほとんどしなかったのに。
その時の傷ついたお姉ちゃんの顔は、今でも覚えている。
まだ子供だったから、自分から謝るのは嫌だった。変な意地を張って、無視をしていた。
先に折れたのは、勿論お姉ちゃんだ。
「A、ごめんね。私が悪かった。どうしたら機嫌直してくれる?」
『……』
「ごめんね、何でもするから許して?」
『…アイス』
馬鹿な事を言ったと思う。
「…え?」
お姉ちゃんは、1人で外出しちゃ駄目だって言われてたのに。
『アイス買ってきて』
激しい雨が降っていると、分かっていたのに。
「アイス…?」
『うん、買ってきてくれたら許す』
お姉ちゃんは暫く迷っていたけど、微笑んで頷いた。
「分かった、買ってくる」
『急いでね、じゃないと口きかない』
「うん、分かった」
激しく降る雨は、きっと体温を奪うだろうに。お姉ちゃんは薄着でアイスを買いに出かけた。
それから1時間が経っても、お姉ちゃんは帰って来る事はなかった。
雨音は強くなる一方。雷も鳴っていた。
流石に遅過ぎると不安になり、傘を持って外に出た。
家の側で、お姉ちゃんをすぐに見つけることが出来た。
地面に倒れたお姉ちゃんを。
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作者名:憂流 | 作成日時:2021年1月31日 10時