第百十三話 ページ16
そうして私は、人間に戻る薬を摂取するために蝶屋敷に来た。薬は珠世さん経由で貰ったそうだ。
普通ならここで薬を摂取し、様子を見ながら人間に戻るのを待つ。禰豆子ちゃんのように。
だけど、
『しのぶさん。私、薬はいらないです』
そう言うと、しのぶさんは驚いた様子で目を見開いた。
「…つまり、人間に戻らないという事ですか？」
『はい』
「人間に戻りたくないのですか？」
『…戻りたいです』
ならどうして、としのぶさんは言った。その顔は強張っている。
『力がいるからです。私もみんなと一緒に戦いたいから』
人間になれば、私には戦うための力がなくなる。それでは意味がない。
みんなを救うために、此処にいるのだから。
「…時透君はそれを望んでいない様でしたよ」
『はい、だからむいくんにはまだ伝えないで下さい』
しのぶさんは複雑そうだった。それから、ふっと目を伏せる。
「……私も…反対です」
小さくそう呟く。
「Aさんと時透君は恋仲ですよね？」
『…はい…』
「２人にはこれから先ずっと幸せに生きていて欲しい。時透君も無惨との戦いには参加しないで欲しいですけど、彼は柱なので難しいでしょう。
だから、せめてAさんは…」
２人の未来が明るいという可能性を高めたい。
しのぶさんがそんなに私達の未来を思うのは…
『しのぶさん…。遅いかもしれませんが、もう毒は飲まないで下さい』
自分には未来がないから。
『自分を犠牲にして鬼を殺そうとしないで下さい。お願いです』
しのぶさんはまた驚いたような表情をした後、眉を下げて笑う。その笑顔はすごく儚くて、今にも消えてしまいそうだった。
「あなたは不思議ですね。まるで未来が見えているみたいです。
…どうして知っているのですか？」
軽々しく言うつもりはない。だけど…しのぶさんを助けるためだ。
『私、この世界の人間じゃないんです』
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作者名：憂流 | 作成日時：2021年1月31日 10時
