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「お前は?怖くない?」





そう聞かれて、少しだけ困った





何度もその光景を目の当たりにして


何度も考えて来たことを今になって問われるとなると、私的には、少し変な気分になる





もはや、怖いなんてものは通り過ぎていて


微塵もそういうものを感じたことがなかった





『…どう、でしょうね。

私は、まだ寿命とか言われてないものですから…』



「…それもそうだな」



『…でも、怖いって思うのはきっと、

自分の人生がちゃんと充実していて
精一杯、命の限りを尽くして生きて来たからじゃないでしょうか』





昔も今も癌と闘って、教師という職業を全うして、沢山考えて、犯罪に手を掛けてる程の覚悟を持って教え説いた先生は


綺麗なまでに磨かれた自分の命を、今度は着々と綺麗に削り散らす




そういう人だからこそ、死ぬってことが怖いのかもしれない



ちゃんとした “しあわせ” というものを知っている人だからこそ、それを失うのが怖いのかもしれない





「…俺にとってはな、死というものは未知で、沢山のものを失い、怖いものだと思ってる。

残された人間は、嘆き、悲しむものだと…思ってるんだ。

お前は、どう思う?」





毛布の下で私の手を握っている手に、少しだけ力が加わった


そして目を覗き込んでくる





いつぞやの授業のときみたいに


それでいて


いつかみたいに、私の考えを見透かして何かを教えるように







…大丈夫

至って気分の波は穏やかだ


きっと、素直に話せる





『私は……

死というものは、生からの解放みたいなものだと思ってます』



「…続き、聞かせて?」



『…人間、誰しも最後は死ぬんですから、怯える必要は無いと思ってます。

…生きるって、私にとっては難しいって言いましたよね?』



「あぁ」



『…生きることって、死ぬことよりも酷なことなんじゃないかと思ってるんです。

死後の世界があると言うなら、この世は地獄に等しくて…
でも実際は、気が狂いそうなくらい何も無い、真っ白な空間で。

そんな場所から解放されるとなると、どれだけ楽で、救済になるのか…


と、思ってしまうんです』





喋っているとき、あまりにもぎこちないものだった思う


途切れ途切れで、聴きやすいとは到底思えない喋り方





それでも先生は、何度も相槌を打って話を聞いてくれた



握られた手は、“大丈夫だよ。” って言われているみたいだった



だから、ちゃんと話せたんだ







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おひな(プロフ) - 感動しました。ありがとうございました。 (1月9日 23時) (レス) @page44 id: fb3fd917e6 (このIDを非表示/違反報告)
玲生(プロフ) - 私こんな綺麗に泣いたことないかもってぐらいすーって涙ながれた (8月14日 22時) (レス) @page44 id: 7f34fd14ff (このIDを非表示/違反報告)
ケロッピ(プロフ) - ありがとうございました (8月6日 1時) (レス) id: fb652d6333 (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 柊先生の生存ルートも書いてほしいです (2021年3月19日 16時) (レス) id: b4ba18a803 (このIDを非表示/違反報告)
蒼炎 - え、え?最終更新日が…?また更新されるのですか?期待しても良いのでしょうか?笑 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 76abfc2842 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もちもち | 作成日時:2019年5月14日 23時

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