・〜柊side〜 ページ34
・
『…先生、離して下さい……』
「…何で？」
『汚れます…』
敬語に戻ったAは、我に返ったようにボソッと聞こえる程度で口にする
離せと言う割には、押し返して来ない
いや、厳密に言うと
距離を離そうとAの手が何度も宙を彷徨っては
それを躊躇するように、上げていた手を下ろしていた
『…返り血、浴びてるんです。肩から、出血してるんです…
だから…』
「離さない」
離してやるかよ
腕に力を込めて密着距離をこれでもかと言う程詰める
…Aは幻覚を見ていて、
きっとそれは、その当時の光景
そしてそれが、体にも影響を及ぼしている
現に、ベッドの上に落ちていた手が左肩を力強く握っている
痛みに耐え、出血を抑える時のそれに酷似している
真正面から抱き締めているから顔が見えない
でも離したら
Aが崩れそうで怖い
『…せんせ、本当に……』
「深呼吸して、よく見ろ。
何も無いよ」
『でも…』
「大丈夫だから」
少しだけ震えた息遣いで、言われた通りに深く呼吸をし始めた
その時に少しだけ視界の隅に入ったAの手
いつの日かのように、堪えるように手の甲を握っていた
…学校の時は、袖があったから引っ張っていたが
無い今では手の甲を握るという事が最近分かった
俺の腕の中で縮こまって、何度も大きく呼吸をするA
次第にこいつの鼓動は落ち着いて来て
震えも徐々になくなる
その間に俺がした事と言えば
背中を優しく摩るだけだった
『…すみません、先生…もう、大丈夫です』
「ん、そっか」
落ち着いたから大丈夫と言うこいつに嘘はないと直感的に思って
そっと、離した
すると暫く沈黙が訪れて
耳に入るのは秒針の音
やっと、夜中らしい雰囲気になる
「…いつも、なるのか？」
『いえ…
何でなのか、自分でも分からなくて…』
そう言ってから無理したように笑い声を出し、どうにか誤魔化そうとする
『…先生、もう寝て下さい。
体に負担掛けちゃ…大変なので』
「お前は？」
『…少し、頭を冷やそうかと』
あんなに焦って、泣きそうな声で寝れないと言っていたAの何処に頭を冷やす必要があるのだろうか
こうなったのは、お前のせいじゃない
お前は、悪くないよ
だから、
今はもう、気を張らなくて良いんだよ
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おひな(プロフ) - 感動しました。ありがとうございました。 (1月9日 23時) (
レス) @page44 id: fb3fd917e6 (このIDを非表示/違反報告)
玲生(プロフ) - 私こんな綺麗に泣いたことないかもってぐらいすーって涙ながれた (8月14日 22時) (レス) @page44 id: 7f34fd14ff (このIDを非表示/違反報告)
ケロッピ(プロフ) - ありがとうございました (8月6日 1時) (レス) id: fb652d6333 (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 柊先生の生存ルートも書いてほしいです (2021年3月19日 16時) (レス) id: b4ba18a803 (このIDを非表示/違反報告)
蒼炎 - え、え？最終更新日が…？また更新されるのですか？期待しても良いのでしょうか？笑 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 76abfc2842 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちもち | 作成日時：2019年5月14日 23時
