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06. どうすることもできなくて ページ6

あれから一週間が過ぎ、貸し出し当番の日。
図書室のドアをあけると、カウンターに天使がいた。

「やっほ」

「ジョンハンくん
久しぶりだね」

「え?バスで会ってるじゃん
てか名前、呼び捨てでいいって」

バスで、会ってる。
あの日から私のこと、気づいてくれたんだ
見ててくれたんだ。




その日の図書室にも生徒はひとりも来なかった。
図書室で本を借りる人なんているのかと疑うほど気配がない。
閉館時間になる少し前、彼は突然口をひらいた。

「ねえ、今日
一緒に帰らない?」


私は貸し出しカードを整理していた手を止め
彼の美しい顔を見つめる。

なんでそんなに自信なさげなの
断るわけないのに。


「いいよ
今日も、バイト?」

「うん、お呼び出しされた」


そこから駅まではたわいもない会話が続いた。
小テストの話、独特の発音をする英語教師のこと、近くにできたカフェのこと。

バスに乗ると、彼は私の後ろの席ではなく
隣に腰を下ろした。
バスが揺れるたび、肩が触れそうになる。
心臓がうるさい。


もうすぐ私の降りるふたつ前。
自然と会話はなくなっていた。

「行かないで」

聞こえるか聞こえないかの声で
私は呟いた。
彼の方を見ると驚いてかたまっていたが
すぐにふっと笑うと

「あの人には、おれが必要なんだよ
だから行かなきゃ」


そんなのいやだ

止まらないで、ずっと走り続けて
このままずっと。

いくら願ってもバスはあっけなく止まる。

「じゃあ、おれ行くわ」


私の左隣の席が空いて視界が広くなる。
ふと、立ち上がった彼の顔を見上げると
またあの笑顔。

悲しそうな笑顔。


「お前は自分のこと大切にしろよ」


そういって私の頭を優しく撫でると
彼はいつものようにバスから消えていく。




どうしてそんなに悲しそうなの
どうしてそんなに自信がなさげなの


あなたはとっても綺麗なのに


伝えたいのに伝えられない自分が

彼のあの笑顔が、言葉が
私の胸をしめつけて

私の目は潤んでいった。

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桜田 - とても美しく儚いお話で途中切ない気持ちになりました。上手く伝えられないのですが、こんなに素敵な作品に出会ったのは久しぶりでした。ありがとうございました。次回作があるのならとても楽しみです。 (2017年4月8日 22時) (レス) id: 85932e2b1a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:youun | 作成日時:2017年3月23日 22時

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