14. 笑顔の優等生 ページ14
俺がAを突き放した日から
バスで彼女の姿を見かけることはなくなった。
それでも俺はいつもの席に座り続けた。
やけに視界がいい前の景色にはいつまで経っても慣れない。
ある雨の日の昼休み、あの人からのお呼び出しの電話がかかってきた。
誰もこないであろう図書室は秘密の電話をする場所にはうってつけだ。
窓に当たる雨の音が騒がしい。
｢またお呼び出し？｣
聞いたことのない声に驚いていて振り向くと、そこにはニコニコ顔の男子生徒。
いかにも優等生という感じのそいつはどこか不気味な雰囲気を醸し出していた。
｢誰だよ｣
｢怖い顔しないでよ、バイトのことばらすよ？｣
言ってることと不釣り合いなほどのニコニコ笑顔。何を考えているのか掴めない。
｢俺に何の用だよ｣
｢俺さ、Aのこと好きなんだよね｣
そいつの口から出てきたAという単語に俺は凍りついた。
｢お前さ、彼女に自分のこと大切にしろよって言ったんだって？笑えるね
そういうお前は自分のこと大切にしてんの？｣
あまりの正論とAに言った言葉をこいつが知ってることにイラついて、俺は名前も知らない優等生の胸ぐらを掴んだ。
｢お前に関係ないだろ！｣
｢ああ、ないよ
でもAには関係あるだろ｣
｢だったら何だよ！｣
｢辛いんだよ！｣
ニコニコが消えた優等生の顔には迫力があった。
さっきまで涙ぶくろで消えそうだった目で俺を睨みつけてくる。
｢好きな人が自分のことを大切にできてない姿を見るのは辛いんだよ！
お前が自分のこと大切にしないから、Aは悲しんでるんだよ！
お前がお前を大切にしない限り
あいつは、Aは、無力な自分を責めたままなんだよ！｣
その言葉は俺を容赦なく刺した。
さっきまで力を込めていた手を緩めて、優等生の制服から手を離す。
昼休みの終わりを告げるチャイムが静かすぎる図書室に響き渡った。
雨はいつの間にかやんでいた。
｢あんな綺麗な子、お前にはもったいないな
俺にはもっともったいないけど｣
そいつは悲しそうに笑うと、授業に遅れるよ？とだけ言い残して俺に背を向けた。
授業くらい遅れたっていい
今、しなくちゃいけないことがある。
俺は履歴から俺からはかけたことのない番号を選んで携帯電話を耳に当てる。
その人はすぐに出た。
｢ハニちゃん？どうしたの、珍しいわね｣
終わりにしなくちゃ
俺のためにも、あいつのためにも。
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桜田 - とても美しく儚いお話で途中切ない気持ちになりました。上手く伝えられないのですが、こんなに素敵な作品に出会ったのは久しぶりでした。ありがとうございました。次回作があるのならとても楽しみです。 (2017年4月8日 22時) (
レス) id: 85932e2b1a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：youun | 作成日時：2017年3月23日 22時
