【文豪ストレイドッグス】ポートマフィアの指導者

弐拾捌頁─濁ッタ人生 2─ ページ35

中々立ち上がらない太宰を見かね、Aは彼の傍にしゃがむ。

それから耳の近くへ顔を持っていき、子供に云い聞かせるように囁いた。




『ねぇ、太宰？このままだと次の稽古で躰もたないよ。今回は唐辛子で許すけど次からは電気流すからね』




温もりの中に冷たさを含んだ声。

太宰は火照った躰が一瞬にして冷却されていくように感じた。

しかしそれも直ぐに収まり、次第にじんわりと全身が熱で包み直される。


Aはその表情を流し見て、それから布の上に腰をかけて三角座りをする。

少しうねった長い髪をくるくると指に巻きつけ弄ぶ。

僅かな口の開閉が何度か繰り返される。

ぐっと横に強く結ばれたのが最後の合図だった。




『太宰。ただ敵を殲滅する術を身につけるのは簡単だよ。絶対王政を敷けばいい。けれど、それでは柔軟な思考を育むことは不可能だ。任務に想定外は付き物。そういう事態に対応出来ないようでは意味が無い』




彼女は何処か遠くを見つめてそっと呟く。

何を思っているのか、その表情から察することは出来ない。


床の割れる音が時折聞こえてくる。

瞳にはこれまでの失敗が濁りとして浮かび上がり、ぐるぐると旋回しているように見えた。




『特に太宰の場合はそう。君、他人に縛られるのは嫌いでしょ？地頭は悪くない。むしろ飛び抜けて善い。だから私も首領もそんな無機質な関係は望んでいない』

「...たとえこんな禄に動けない子供でも、ですか？貴女は優しいのですね。とてもマフィアの指導者とは思えない」




未だふらついているものの漸く支え無しで立ち上がる。

彼は疲労を隠すことなく憎まれ口を叩いた。


彼の意図を直ぐに汲み取り、Aは眉をひそめて
半目で見る。

態と怒らせにきている。

それを確信した彼女は脱いだ外套を手にし、彼の瞳孔を見据えて云った。




『先輩の御教授は有難く受け取りな、年中怪我しかしてなさそうな軟弱者が。いいよ、かかってきな』

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