. ページ32
.
なんだ、となんとも不躾な言葉には些か苦笑いが浮かんだが、幸い、好意的な人間だと認識されたようで、先程の張り詰めた表情よりかは遥かに人間らしい顔つきになっているような気がする。
彼はなんとまあ、名を冠する小説家。つまり、私の敬愛する人種の一人。それは大層な文で、悲壮感にも憎悪にも塗れたそれらは大変エモーショナルなものである。
「えっと、…Aさん、だっけ。帰んないの？ここ暗いし、女の人一人って、大丈夫？」
「まぁ、ええ。そんなことより、先生の執筆姿をみせていただけませんか？」
「えぇ…」
苦虫を噛み潰したように顔を歪ませるけれど、少し思案するような素振りのhacchiさん。
きっと、押せ押せに弱いタイプなのでしょう。心優しく、情緒深い。それ故に脆い。流石、作家としての要素はかなり高い。
「…面白いものでもないけど、」
「えぇ、いえ。いいんですよ。」
諦めたような口調で告げ背を向けるhacchiさんの後に続く。
作業をしていたと思わしき机には暗がりを照らすささやかな灯りと、有象無象の文字たち。
彼の世界観が広がる机上にうっとりと意識を奪われていると、不意に口を開いた。
「あのさ、ここ、あんま人に言わないで。」
「…もちろんですとも。」
暗に囁かれた二人の秘密の場所、なんて素晴らしいのか。
世界に堕ちて行くhacchiさんの背に、暗がりの中の私はひっそりと、口元を緩ませた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 40人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
相田(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました、そしてお疲れ様でした！ログアウト後もどうかご自愛ください。楓様の作品が本当に好きです、改めてありがとうございました！ (2021年7月17日 1時) (
レス) id: 2ca09c2594 (このIDを非表示/違反報告)
楓(プロフ) - 相田さん» コメント頂きありがとうございます。アカウントの方は完結後ログアウトとなりますが、もし機会があればまたどこかで…！ (2021年6月30日 2時) (レス) id: bb94798393 (このIDを非表示/違反報告)
相田(プロフ) - 日々の支えであった楓様の作品を拝めなくなると思うととても寂しく思いますが、アカウントを消された後もどうかお元気で...！ (2021年6月30日 2時) (レス) id: 2ca09c2594 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：楓 | 作成日時：2021年3月25日 11時
