𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟹𝟹 ページ34
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そして私はここで肝心なことに気づいた。
服屋に来たというのに、全く着ていくドレスを決めれていないということに。
いっけない、私も早く探さないと……
再び衣装を選びはじめた2人から少し離れ、広い店内を何のあてもなく彷徨う。アフタヌーンからイブニング、カクテルドレスと選ぶものが多すぎる。気が遠くなりそうだ。
私が悩みに悩んでいると、その様子を遠くから見かねたのか店員さんが歩いてきた。
「お客様、何かお探しでしょうか」
「あ……えーと、今度パーティーに行くんですけど、その時のドレスが全く決まらないんです」
事情を話すと、店員さんは相槌打ちをしながら聞いてくれた。そして私の身長を聞くなり、"少々お待ちください"と奥に消えていった。
それからしばらくして戻ってきた店員さんの腕には赤い色のドレスがかけられていて。
「……なら、こちらのお召し物なんていかがでしょう」
そう言って広げたのはワインレッドのマーメイドドレス。色は深紅よりも深い色味で、そこまでの派手さもない。これは上品な部類に入ると思う。しかし1つ問題があった。
「マーメイド、ですか。せっかくですけど、体のラインが見えるのはちょっと……」
「あら!でもお客様、スタイルいいじゃありませんか。きっとお似合いだと思いますよ」
まぁ、ドレスは素敵だけれど……
しかもよく見たら太腿からスリットが入っていて、少しセクシーすぎるような気も。"そこがポイントなんですよ!"という店員さんの押しと、その満面の笑顔に心が揺れた。
「もしお気に召されなければ、1週間以内でしたら返品も可能です!」
……そして、最終的に私はその一言で決断した。
レシートさえあればまた選び直せるし、ひとまず家で試着をしてみよう。合わなかったら返却すればいいのだ。
とりあえず暫定的に決まったドレスをお会計まで運んでいると、蘭ちゃんたちもこちらに向かって歩いてきた。
どうやら園子ちゃんも着ていく衣装を決めたみたい。彼女が手にしているドレスはトルマリンのフワフワしたもの。薄い緑が綺麗で海を彷彿とさせられる。
「園子ちゃんのドレス、素敵ね!」
「わ〜、ありがとうございます!Aさんのもいいチョイスですね」
彼女にもそう言われて、意外とこのドレスはいいのかもしれない、と思い直す。
しかし、そんなことを考えていられるのは今のうちで、私がその値段を見て衝撃を受けるのはこれからすぐのことだった。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年12月9日 22時