𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟶𝟸 ページ3
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カチ、カチ、カチ……
真っ暗闇の部屋では、壁掛け時計の秒針が進む音だけが響いていた。
私が一世一代の告白をしてから、何分も何十分も経った気がした。心臓はバクバクと高鳴っているし落ち着きがない。言葉では言い表せないような空気が立ち込め、徐々に腹痛が私に襲いかかる。
そんな静寂を打ち破ったのは、"馬鹿な女だ"と目の前からポツリと聞こえた声だった。
「……こんな奴にサツが務まっていたとは聞いて呆れるな」
"正義のヒーローが罪人を好むなんざ聞いたことがねぇ"と嘲笑される。
まさに彼の言う通りで言い返すことなんてできない。ましてや、私はそれがきっかけで警察を志したのだから。馬鹿にされたって無理はない。
だからこそ、私は流れるように出てきた次の言葉に驚きを隠せなかったのだ。
「だが………そんな馬鹿な女に惚れ込む俺も、また馬鹿なんだろうぜ」
確かに、彼はそう言ったのだから。
「……………え?」
惚れ込む……つまり好きだと。彼は何の戸惑いもなくそう私に告げた。嬉しいとか喜びとかそんな感情は何一つ湧かなくて。ただただ、頭が追いつかなかった。
………私、いま告白されたの?
「ね、ねぇ、それってつまり──」
"告白?"
唐突に告げた彼に、そう確認をしようとした。けれどもその続きを言うことはできなくて。
……いや、正確には言わせてもらえなかったのだ。なぜならば、私は彼に口を塞がれていたのだから。もうそれ以上いうなと言わんばかりに唇に蓋をされる。至近距離で保っていた絶妙な間隔が消え、覆い被さられていることも相まって一気に顔に熱が集まる。視界はシルバー1色で染まり、顔はやや乱暴な手つきで彼に固定された。感じるのは重なる唇の体温と、その隙間から零れる互いの熱い息くらいで。
今、ここが暗闇であることに初めて感謝した。だって私の顔は林檎のように真っ赤に染まっているはずだもの。
しばらくして名残惜しげに唇が離れると、ようやく彼の表情が視界に入った。
「………言葉にしなきゃわからねぇのか?」
シルバーの間から覗く彼の双眸。どこか捕食者を感じさせるそれは、珍しく真剣な眼差しで。凍てつくようなさっきの視線とは全く違くて。この姿に冗談で言ってるなんて思わなかった。それはもちろん、私を揶揄っているというわけでもなく。
つまり、彼が本気なのがわかった。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年12月9日 22時