たえまなく過去へ押し戻されながら 5 ページ19
屋上の扉を開けると、丁度組合の回転飛行機が飛んで行くのが見えた。こんな町中に飛行機なんかできて、騒音被害で訴えられたらどうしてくれるのだ、と考えながら飛び立っていった回転飛行機を睨み付ける。
「……はあ」
―――『志賀直哉』という人物を知っているか?
フィッツジェラルドさんが最後に言った言葉が何度もリピートされ、ため息がでた。
志賀直哉。私はその人物をよく知っていた。何故なら、志賀直哉は―――…
「Aちゃん…っ!」
「ひぇっ!?」
突然、近くで大声で名前を呼ばれ、肩を叩かれた。驚いて短い悲鳴がでた。後ろを振り返ると、敦くんが驚いた様子でこちらを見ていた。
「な、なに?」と敦くんに尋ねると、何回も名前を呼んだが、気がつかなかったので大声で呼んだそうだ。
「ごめんね……ちょっと考え事してて気がつかなかった。敦くんはどうして此処に?」
「えっ…!?……Aちゃんが具合悪いっていうから、大丈夫かなって…思って…その……」
「…ありがとう。私はもう大丈夫だよ」
大丈夫だという意味をこめてガッツポーズしたが、敦くんはまだ納得していない顔をしている。
「……Aちゃん。僕は、あの路地裏での闘いの時、君が芥川の言葉を否定してくれて嬉しかった」
「……あ、敦くん?」
「えっと……何て言えばいいか、よくわからないけど…。何か悩んでることがあったら、頼ってほしいんだ」
驚いて、ぱちりと瞬きを一つしてしまった。今までそんなことを言われたことがなかったからだ。そのあと、敦くんは照れたのか、顔を赤くして「あ、ぼ、僕じゃなくても良いんだけど……!!」と尻すぼみになっていく。
「……ふふ。ありがとう、敦くん」
動作が少し大袈裟な敦くんがおかしくて、笑ってしまう。敦くんは優しい。本当に、敦くんが後輩でよかった。そろそろ戻ろう、と敦くんを促して屋上から出ようとしたところで、後ろから敦くんに腕を捕まれる。
「僕は…!!知りたいんだ!君のこと!!」
その時、ふわりと風がふいた。敦くんの絹のように細くて白い髪が揺れるのを見つめる。真剣な表情で私を見つめる敦くんにどきりと胸がなった。
「……いいよ。」
「え?」
「いいよ。君になら教えてあげる」
どうせ、このままではバレるのも時間の問題だろう。
私の返答が予想外だったのか、敦くんは驚いた顔をしたが、私が話始めると真剣な表情で聞いてくれた。だから全部話した。太宰さんのことも、昔の名前のことも、全部全部。
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塩わさび - ミヤさん» コメントありがとうございます!おもしろいといっていただけるなんて光栄です…!!!頑張って更新していきたいと思います……! (2018年4月18日 23時) (レス) id: e627b6cc05 (このIDを非表示/違反報告)
ミヤ - 続編おめでとうございます!人間創造、とっても面白いです!これからも頑張ってください。応援しています! (2018年4月17日 21時) (レス) id: ce29b99b88 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:塩わさび | 作成日時:2018年4月16日 21時