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episode.5 ページ5

芥川は、そっと太宰の腕に触れた。


衣服越しに太宰が顔を上げるのが伝わってくる。

「…聞いて居たの?」

怒気はなく、純粋に驚いた声音。

「…はい、申し訳有りません」

太宰の腕に抱かれた侭、素直に謝る芥川。

数秒の沈黙の後、太宰は小さく「莫迦(ばか)」と零し身体を起こした。
其れに(なら)い、芥川も起き上がると太宰と向かい合うように座す。


小さくて重い、再びの沈黙。


俯いた太宰に月光が(かげ)を投げ掛ける。
月明かりの蒼白い光の中でも、太宰の頬の朱はよく判った。

…何か、話さねばならない。

「あの…」

「君は、」

芥川の声を、太宰が遮るように云う。

「君は…中也の所に行った方が善いんじゃないの…?」

芥川の心臓が、厭な感触をあげて疼く。

「え…?」

「優しくない私依り…自分から引き取る、って云った中也の方が」

太宰の指がきつく震える。


「僕は…太宰さんの許の方が」

芥川は、つかえる喉から何とか言葉を押し出す。

「無理、しないで善いんだよ」

そんな芥川の雰囲気を読み取ってか、太宰は明朗に云いきる。


─厭だ。


「其ん…な、僕は…」

「私の苛烈(スパルタ)教育って、組織の中でも有名なんでしょ?」

「僕は…」

云わなければ。

そんな事は無い、と。

だが、こんな肝心な時に、何故言葉が出ないのだ。

「幾ら中也でも、組織一教育が下手な私依りは、未だ…ね」

太宰は諦めたように首を振る。

「違う……僕は」

─早く、止めなければ。
─“違う”と云わなければ。



「御免ね…優しく出来なくて」

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太芥愛する人間といえない人間 - 萌えました!!美味しかったです!素晴らしい作品ありがとうございます!リクなのですがドス君(攻め)×ゴーゴリ(受け)などはいけますでしょうか!できたらお願いします<(_ _)> (2019年7月22日 22時) (レス) id: 1af3b5ff3f (このIDを非表示/違反報告)
桃坂 - 太宰さんが可愛いです…! ものすごくキュンキュンする太芥を有り難う御座いました…! リクエストいいですか? 敦芥か芥敦お願いします! (2017年5月10日 20時) (レス) id: 2541e4ebff (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - すごいです!上手く始まらせて、短い話数で上手く終わらせて。なんか感動しました。私的には、太宰の少し初心な初々しさにキュンときました(*´ω`*)リクエストいきます。旧双黒の中也受けか、少しマイナーかもしれませんが太国か森太が良いです!お願いします! (2017年5月7日 8時) (レス) id: c3a5a30d5d (このIDを非表示/違反報告)
無音アンドロイド(プロフ) - ルンルンs,りんごs>リクエスト有難う御座います、承りました。宜しければどのようなシチュが良いか、も教えて頂けますか? (2017年3月25日 23時) (レス) id: 98734fc812 (このIDを非表示/違反報告)
なかゞわとまと - なんとも言えない2人の心象に心を打たれました。素晴らしい太芥でした…! (2017年3月25日 23時) (レス) id: 59e0ee862d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:無音アンドロイド | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=229f2f62f7b86e42d1de716c8d2ed481...  
作成日時:2017年1月29日 10時

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