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「おい、あんた。いきなりズケズケ踏み込んできて、なんなんだいったい?」
そのあたりで我慢の限界が来たのか、真緒が全力で泉の胸ぐらをつかんで、無理やり自分のほうを向かせた。
なぜ、そんな酷いことが言えるのだろうか。
才能がないだの、お遊びだの、寄り道だのと......。
彼がどれだけがんばって____『Trickstar』のみんなに追いつこうと、足掻(あが)いていたのか知らないくせに。
「あんたが、真とどんな関係なのかは知らないけど____」
知っているんだ、真緒は。
いちばん、彼をみていたから。
だから、黙っておらず、泉に食ってかかる。
「わかったようなこと、言うなよ。こいつは、努力してる。足りないところがあったとしても、俺たちが埋(う)めてみせる。
真は『きれいなお人形』なんかじゃない、人間として生き始めたんだ! それを、邪魔すんなよ!」
「......衣更くん」
真がそれだけで救われたように、放心したまま呻(うめ)いた。
そんな彼のそばから、真緒が泉を無理やり引き離す。
そして、真の前に立ち塞(ふさ)がった。
仲間を守る鉄壁として、最後の希望の星が。
その全身に、怒りと友情を充満(じゅうまん)させて。
「ふぅん。暑苦しいねぇ、鬱陶(うっとう)しい。努力とか、情熱だけで渡っていけるほど、アイドル業界は甘くないよ?」
それほど腕力はないのだろうか、泉はもがいたものの、真緒につかみかかられたまま動きがとれずにいる。
憎々しげに、真緒の手のひらに爪を立てていた。
「現実は冷たくて、数字が支配していて、心はすぐに壊れる」
彼のことばに、美羽の表情に影がかかる。
思い当たる節があるのだろうか。
泉も、先程までとはすこし、違う気がした。
「それを思い知って、さっさ戻っておいでよ。いつでも大歓迎だからね、ゆうくん」
痛みに怯んだ真緒から数歩、後ずさって____捨て台詞を呟いた。
すれ違う際、美羽は彼を呼び止める。
「泉くん、すこし訂正させてもらうわ」
泉は怪訝そうな顔をして、立ち止まった。
「【真の才能とは、自分自身を信じることだ。
自分のちからを信じることだ】
......否定、しないでほしいの。真くんのことも、【あの人】の、ことも____」
「ほんと、変わったよね。あんた【も】」
互いに背を向き合いながら、そう告げた。
「......それから、最後に言わせて」
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作者名:白銀桜夢 | 作成日時:2018年8月9日 18時