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怒っている。
大事な友達が、刃物で刺(さ)されるような罵(ののし)られかたをしてるのだから____それも当然だろう。
今にも泉に殴りかかりそうだ。
「ていうか、俺の断りもなく辞(や)めちゃってさ......。みんな哀(かな)しんでるよ、迷惑も被(こうむ)ってる。
ちょっとは、申し訳ないとか思わないわけ？」
泉はなぶるように語っている。
「目の前の困難からすぐ逃げちゃうやつは、大成しないよ。俺、いつも口を酸(す)っぱくして言ってあげてたよねぇ？」
自分のくちびるに指を添(そ)え、凍(こお)りついたように動けない真のそれに触れさせる。
「ねぇ、戻っておいでよ。きれいな見た目はさ、ゆうくんに神様がくれた唯一のギフトなんだから。
それを捨て去って、誰も望んでないことに従事(じゅうじ)するのは、才能と人生の無駄遣いだよねぇ？」
真の眼鏡を引きちぎるようにして奪って、泉は忌々(いまいま)しそうにそれを床に投げ捨てる。
破壊者____あっさりと、踏みつぶした。
泉はもはや真の顔に己の頬(ほお)を触れさせている。
よしよし、と頬ずりまでしている。
小さな子供が、お気に入りのぬいぐるみにそうするみたいに。
「グラビアモデルに、心はいらない。夢も希望もいらない、友達もいらない......。きれいであれば求められる、
そして昔のゆうくんはきれいだったよ？」
不意に、真を突き放した。
真の背中が、壁に激突(げきとつ)する。
痛みに呻(うめ)き、床にへたりこむ彼を____泉は傲岸(ごうがん)に見下ろしていた。
苛立ちのためか、その肩が小刻(こきざ)みに震えている。
「今はもう、見るに堪(た)えない。がっかりだよ、失望しちゃった」
顔を背(そむ)けて、憎悪(ぞうお)だけでひとを殺せそうな凄絶(せいぜつ)な目つきになる。
けれど不意に、赤ん坊みたいに無邪気に笑った。
「でも、今からでも遅くないよ。お遊びはやめて、こっちの世界に戻っておいで？」
むしろ懇願(こんがん)するみたいに、泉は甘い声音で告げてくる。
「ゆうくんは『きれいなお人形』、飾られてこそ輝く。人形が自分の意思で動き始めたら、それはもう気持ち悪いだけだよねぇ？」
「......お遊びなんかじゃ、ないです」
短い沈黙の果て、真が首を振って、触れたままの壁を支えとしてどうにか立ちあがった。
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作者名：白銀桜夢 | 作成日時：2018年8月9日 18時
